猿夢 A

猿夢02






待ち合わせのカフェに早めに足を踏み入れて一番奥のテーブル席に着く。京子たちが来るまで先日のニュースに進展はないか軽く目を通す。
京子たちは時間通りに姿を見せ、店内に入るなりすぐに私を見つけて向かい側に座る。
京子と女の子が1人。隈が酷い、眠れてないのだろう。


「はじめまして」


戸惑っている様子で頭を下げた女の子に、はじめましてと笑顔を返す。


「莉皇、ごめんね…」

「あぁ、大丈夫だよ。むしろ声かけてくれて助かるよ。えっと…じゃあとりあえず…」

「はい、どこから話せば…」

「ねえ、イチゴ好き?ここのショートケーキ美味しいよ。あ、でも好きなの選んでくれていいよ。一息つこ?」


話を切り出そうとしたところで、女の子の肩が強張ったのを見て話を逸らす。京子も予想外の言葉に戸惑いながらメニューを開いた。


「緊張してるでしょ、食べながらゆっくり話をしよ」

「あの…随分若いみたいですけど…大丈夫ですか」

「若いも何も同い年だもんね。でも大丈夫…って言っても胡散臭いしね…この手の話は何言っても胡散臭くなるから困るよね〜…」


メニューを眺めながら呟く、実際怪しいに変わりない。とりあえず、とドリンクを3つとケーキを3つ頼んで、軽く自己紹介を済ませた。
京子が連れてきた女の子は坂口花さん。京子の同級生でよく一緒に遊んでるとのこと。

ケーキを2、3口食べ進め苺が好きだラズベリーが嫌いだだのくだらない話を数分して、緊張が和らいだらしい花さんの様子を見て話を切り出した。

始まりはこうだ。

ある日一人の男子生徒が変な夢を見ると言った。それはいつも通学に使う駅に一人でいるところから始まる。そこで何気なくスマホを弄りながら電車が来るのを待っている。少し不思議には思うがそ何でもない夢だ。

しかし、何日も何日も同じ夢を見るという。
いつもの見慣れた駅で一人でスマホを弄りながらただただ電車を待つ。それだけの夢を何度も繰り返し見る。同じ夢を何度か見ることは良くあるが、毎日同じ夢を見るのは気味が悪い。それで花さん含む友人ら数名に話のネタとして打ち明けたらしい。

花さんの顔色は悪いが、思っていたより冷静な語りでホッとする。恐怖に負けていると話は支離滅裂になっていく上、重要な部分を語れなくなってしまうからだ。京子は私をどう彼女に紹介したのかわからないが、どうやら頼りにはされているようだ…藁にも縋りたい、という気持ちなのかはわからないが。

まだ落ち着きはしないのか話の合間に紅茶を喉に流し込んでいる。


「その男子はどうなったの?」

「それが、しばらくは同じような夢ばかり見るって嘆いてて、先月の頭くらいに夢の話をまたしてきたんです。」

「何か進展があった?」

「あ、はい…電車がくるアナウンスが流れてきたって。でもなかなか電車が来ないって…そういうのがずっと続いてるって言ってて…」

「どんなアナウンス?」

「すいません、そこ、きいてなくて…。で、その彼自殺しちゃったんですけど…彼が自殺する少し前にやっと電車が来たんだって話をしてて…」


話慣れてきたのか話し方に余裕が見え始める。
彼女の話では電車が来た後数日はその電車を見送っていたというが、ある日気づいたら電車に乗っていて電車から降りることができなくなったという内容だ。車中には顔色の悪い男女が数名、それ以外に人は見当たらない。次の駅に止まる様子もなくずっと走り続けている。それ以外は特に違和感もない、外観も内観も特に変わりない普通の電車。

ただそれからまた数日後様子が変わる。
座っていた男性が突然慌て出した。助けてくれと泣き縋る姿に圧される。男性はしばらくして何かに奥に連れて行かれ戻ってこなかった。


「その後からなんです。彼の様子が変わったの。眠れない、眠りたくないってずっと言ってて…」

「夢を見るから?」

「たぶん…。学校にはきてたけど元気もなくて…。夢の話を聞いてた男子数名が見ててやるから少しの間だけでもってお昼休みに保健室に連れて行って仮眠を取らせようとしたんだけど…眠りについたと思ったら少しして彼が自分の首を絞めて泣き喚きはじめて…止めようとしたけどすごい力で…なんとか起こすことはできたって…」


ティーカップに添えている手が震えている。
京子が花さんの背を撫でる、震える手に私も手を伸ばしゆっくりでいいと伝えると深呼吸をしてまた言葉を続けた。


「その数日後彼は自殺してしまって…それで、あの…その時の男子数名が彼と同じことを言い始めたんです。駅のホームで1人で立ってる夢を見るって」

「その男子数名の中から自殺者は?」

「出ました。みんな同じ夢を見るって言ってて次は俺が死ぬかもとか言い合ってて…」

「…………花さんは?」

「…………」

「夢は見てる?」

「見て、ます。」


数日前から、駅のホームで電車を待つ夢を…。そう続けた花さんの顔から血の気が引いていく。だから、助けて欲しい。と泣きそうな顔で頭を下げる。


「花さんは、自殺した男子達の自殺未遂に立ち会ったことある?」

「はい………一度だけ………夢のせいで自殺するんじゃないかって何人かで集まって見張りを立てて交代で寝たりしてました…その時に」

「それはいつ?」

「最近、ニュースで取り上げられましたよね。それより少し…2〜3日前くらいです。すみません、記憶が曖昧で…」

「わかった…ありがとう。夢のせいなのかは別として、花さんにはまだ時間がありそう。知り合いで長くその夢を見てる人紹介してもらうことできる?」

「それなら、私に心当たりある。」


黙って話をきいていた京子が声を上げる。明日ホテルを取るからその人にそこに来てもらえるようにお願いをする。
京子もその場で連絡を取ってくれ、了承を得た。

私もやっぱり人の手を借りる必要があると判断して、快く受けてくれそうでもありまた都合のいい術式である棘に連絡を入れた。

今日はこれで解散をする。まだ呪いの気配を感じさせない花さんにはお守り程度に私の呪力を込めたストラップを肌身離さず持っておくようにと手渡した。ついでに京子にも。

2人と分かれてホテルの手配を済ませ、家路に着いた。




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