ホテルに足を運ぶ。
補助監督の仕事で時々利用しているホテルだ。
部屋も綺麗だし広いしサービスもいいし何よりご飯が美味しい。呪術界と縁のある場所のため、諸々話がスムーズに行くのがとても助かっている。
駐輪場へバイクを停め、ロビーへと向かうとロビーに並べられたソファに座って棘がこちらに手を振っていた。
「たかな」
「早くない?もしかして待った?」
「おかか」
「良かった。来てくれてありがとう棘。よろしく。」
「しゃけ、いくら」
任せろとピースサインを出すわりに表情は変わりない。
棘に任せたい事は事前に伝えてある。
呪い感染のトリガーになっているのは自殺の現場に居合わせることだろう。だからその現場に立ち会う。その目的で京子に頼んで協力者を呼び出した。呪言で眠らせることもそうだが、自殺行為を私一人で抑えられなかった場合は棘に止めてもらう算段だ。私一人で止められるならそれに越したことはないが、万が一に備えるのは悪いことじゃない。
この案件で棘に呪いが感染するのは申し訳が立たないので,別室から通話を繋げたままスピーカーにし待機してもらうことにしている。
どの範囲で感染するのか定かではないが…感染のリスクが低い方を選ぶのは当然のことだ。当然棘本人には感染のリスクや情報の共有は行った上で協力してもらっている。
「いくら?」
「あぁ、そろそろ来る頃だと思う。」
協力者について棘に問われたタイミングで、不安そうに怯えた様子の少年がロビーに入ってくる。なんだか可哀想ではあるが、目に光もなく覇気のない表情で周りをキョロキョロとしている姿は側からみれば不審者にも見えなくない。周りの注目を集める前に、と声をかけると少し安心したように息を吐いて軽い挨拶と紹介をして部屋へと移動した。
結果論で言うと、予定通りではあった。
協力者もとい山野さんと部屋に入り改めて軽く挨拶とここにいるメンバーがどんな立場にいるのかこれから何を行うのかを含め自己紹介を済ませる。
山野さんから吐かれた言葉は「助けてくれるなら」と言うことくらいだった。
暴れにくくするため身体を拘束することに協力してもらい手筈通りにことは進んでいった。
山野さんの状況として案内のアナウンスはあるものの電車はまだこない段階らしい。時間に猶予がありそうなことに多少の安堵を覚える。
棘には別の部屋に移ってもらい、通話を繋げて呪言で山野さんを強制的に眠らせる。その後は通話は繋いだまま、協力者の様子を伺うだけだ。その間棘と何気ない会話をしながらテレビを見たり自殺に関する最近のニュースに目を通した。
自殺といっても、寝ている間に行う自傷行為ということで特に酷いものではなかった。拘束をしていることもあり女の私でも止めることに苦労はなかった。もしかしたらまだ死ぬ段階にはきていないだけかもしれないが…。
夜が明け、一般的な生活をしていればそろそろ活動時間という頃合い、協力者である彼は自然と目を覚ました。
数日眠れない日々が続いており、久しぶりに静かに眠れたと嬉しそうに笑っていた。相変わらず夢は見た見たようだが、安心していられたと感謝を述べられた。どうやら余程頼りにされていたようだ。
京子や花さんと同じようにお守り代わりのストラップを渡す。肌身離さず持っていることと、今回はお祓いをしたわけじゃないから気を抜かないようにと念を押す。
自身が感染できたかどうかは定かではないがその場で確認できるものではない。とりあえず何か変化や困ったことがあれば連絡が欲しいと、朝食の場で連絡先を伝えて、その後は解散となった。
そして、数日後から私も話に聞いていたのと同様、夢を見るようになった。
誰もいない駅のホームに1人佇む、自分の夢。
どこ行きかも書かれていない電子アナウンス。
それらしく書かれているがチグハグの案内板。
どうやら第一の目的は達成したようだ。
続
コメント 0件
コメントを書く