猿山 C

猿夢04





「めんたいこ…?」

「まだ電車が来ないんだよ…。アナウンスも流れない。
他のホームに移動しても、線路を歩いても何も起こらないし誰にも出会わない…。
もし、あれが領域展開内ならどこかに壁があってもいいはずなのに、外にはちゃんと街が広がってるし、人の気配がないこと以外は至って普通の町で…」


教室で二人、空いた時間に経過を聞かれ協力してくれた手前隠すのも事もないかと伝える。
外はもう夕暮れ時で、空は赤みを増して日の届かなくなった場所から夜の色が滲み始めている。
今日は棘は特に予定がある訳ではないこともあつて、例の件で行き詰まり途方に暮れている私を心配してくれている。


「おかか…」

「….あぁ、いや…寝てはいるんだけど…」


目の隈が酷いと注意を受ける。
感染したはいいものの、なかなかうまくはいかない。呪いが何かを察して隠れているのか自分の番が来るまであの夢に進展はないのか…今のところなにも分かってはいない。
協力してくれた彼、山野さんもその後数日は夢を見続けていたが今も夢を見るものの前とは違い過度な不安感はないと言う。何かあったら連絡を、と最初に伝えてはいたが彼は有難い事にこまめに情報を送ってくれている。
花さんもまだアナウンスは流れていないらしい。
花さんと同時期に感染した人たちもまだアナウンスは流れていない。


「動きがない…夢を見る以上逃げたわけではないと思うけど…あの即席魔除けストラップが効いた…?」

「おかか、たかな」

「1人ずつ死んでるなら、順番待ちの可能性が高いしもしそうなら前の人たちが死ななきゃ私の番にならないことになる…正直詰んだなって思ってる…」


寝不足で頭も回らない。ニュースにも取り上げられなくなってきているし噂も少し落ち着いているように思える。
協力してくれた山野さんの前の人…山野さんの感染元になった人はどうなんだろうか…山野さんはアナウンスが流れていて電車待ちだと言っていた、だからその前の人はもしかしたらもう電車が来ているかもしれない。電車に乗らなければ助かるのか…それもわからない…。しらみ潰しになるが感染元を辿っていくしかないのか…。


「あぁ、そうだ。棘は?夢は見ない?大丈夫?」

「しゃけしゃけ」

「そう、よかった。」

「…いくら、めんたいこ」

「絶対にだめ。もし自傷行為や自殺行為が始まっても私ならリスクが少ないから話が回ってきたんだよ。わかるだろ…」

「…たかな」


山野さんも花さんも…助けるとは言ったけどこのままじゃ助けたくても助けられない…。あれから誰も死んでない。全部が停滞している。
良いことなのかもわからないが、このまま夢を見る人が夢への恐怖心を忘れるまでこれが続くとしたら…。

ふと、ぐちゃぐちゃになった思考がスッとまとまったような感覚に落ちる。
向こうが動く気がないならこちらから動かせばいいじゃないか。


「なあ、棘」

「いくら?」

「….あくまで、あくまで仮定なんだけど。呪いの目的が自身の呪いで夢を見る人の命を奪うことだったとして、もしターゲットが自分の呪いとは関係のない別の要因で命を奪われたり失ったりした場合…どうなると思う。つまりマーキングしていた獲物を他者に盗られるとしたら…」

「…おかか」


棘が信じられないとでも言うように目を見開く。
それは否定を含む表情だが思いついてしまった考えは止まらない。


「心臓が止まったとしても脳が死ぬまでには多少の時間がかかる。夢を見るのも脳な訳だからもし外的要因でターゲットの命が消えかけた場合脳が死ぬまでの間に夢を展開してターゲットを殺す必要がある。呪いが目的を果たそうと顔を出す可能性って高いんじゃないかな。」


今までこの呪いが潜み続けてたのも頷ける気がする。死因が自殺と判断されるのであれば経緯はどうであれ呪いによる不可思議なものにはならないから呪術界への要請は来ない可能性が高い。
感染後に硝子さんに診てもらったけど、起きている間呪力の気配は感じても微弱で、感じ取れたとしても気にするほどのものではないと判断する術師は多いだろうって言ってたし、既に目的を果たして離れた呪いなら尚のことだ。宿っていた呪霊が次のターゲットの身体に移ったのなら呪力を感じても硝子さんの言うように微々たるものだろう。
夢の中に出現するなら窓の人たちに見えないのも頷ける。
あくまでも仮定だが、そうだとしたら厄介な呪いだ。
だけど仮定が本当であれば手はある。
私が死ねばいいのだ。


「おーかーか〜…」

「私が死んだとして、蘇生するまでにもいくらか時間はかかるしその間に呪いが顔を出せば祓うチャンスはある。はず。」

「おかか!」

「わかってるよ….仮定の話でそういう手段もあるってだけだよ。」


とは言っても、この状態が続くのは好ましい状況ではない。頭を悩ませる時間は続くばかりだ。
その日、疲労からくる眠気で死んだようにベッドに沈み込んだ夜。静かな駅のホームにアナウンスが響き渡った。


何を言っているのか聞き取れるし言葉として成り立っているはずなのに、何故か理解のできない言葉。





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