Vampire



 彼と会うのはいつも夜、私の部屋で。
 夜の間はあれほど近くに感じられたのに、朝が来る前には姿を消してしまう。
 まるで吸血鬼のような人だと思った。

「外、寒かった?」
「ちょっとな」
 私を抱きしめる彼の冷えた頬に触れれば、ぬくもりを追うように手のひらへとすり寄せられた。きっと無意識なのだろう、こちらはそんな些細な仕草ですら恋しくて仕方がないのに。
「なあ、はやくベッドに行こうぜ。俺をあたためてくれよ」
 甘えるようにそう言われては、今日もまた流されてしまうのだ。
 この関係に意味なんてあるのか。彼の口づけを受けながらぼんやりと考えてしまう。

 彼は女に不自由しないくらい有名人で、人気者で。そんな中から選ばれている優越感だとかに浸っていられるくらい、純粋であれば良かったのに。

 表立って女遊びをすることは許されず、外に出ればパパラッチ。多忙な彼には時間も無い。制限された環境の中、同じ集合住宅の隣室に住んでいる私は彼にとってていのいい遊び相手だったのだろう。そんな理由で続けているだけの関係性だ。
「シルバ、さん」
「ん?」
「……。何でもないです」
 言い淀む私を気にもしてない様子で、噤んだ口をこじ開けるように舌が滑り込んでくる。
 何を言いかけたのすら、自分でも分からない。『好き』なのか『もうやめたい』なのか。きっとどちらを口にしても、この関係はあっさり終わってしまうのだろう、と分かっていた。


 ずっと夜のままでいられたら。そうは思っても毎日等しく太陽は昇る。
 彼はいつも私の起床を待たずに出て行ってしまう。恋人でもない女の家に長居する理由など無いと、弁えているつもりでも、寂しく感じてしまう気持ちは変わらない。
「……やっぱり吸血鬼みたいだ」
 洗面所の鏡の中、喉元へ執拗に残されたうっ血痕を見てひとり呟く。
 次はいつ会えるかな。もしこの痕が消えてしまう前に来てくれたら、次こそは、

(2023年4月29日 Privatter掲載)
(2025年9月19日 加筆修正)