CHERRY-PICK(after)

※オクタン×他の女性(モブ)を匂わせる表現


 気持ち良かったし楽しいセックスではあったが、いくらなんでも絶倫すぎる。

 あの後、女の鳴かせ方を器用にも理解した彼に責め立てられ、何度も意識を飛ばしかけた。筆おろしをするはずがどうしてこうなったのか。性に対する興味が薄いのだとばかり思っていたが、それは間違いだったのかもしれない。とんでもない猛獣を檻の外へ放ってしまったような気分だ。
 私を散々イかせたオクタンはどこか自信に満ちた面持ちで、きっとこれからは女関係も派手になっていくのだろうなと確信めいたものを感じさせた。全身ドロドロの私とシーツをそのままに「ありがとうな!」と爽やかに去っていったあたりは、ゴシップ誌の内容が事実になるのも遠くない未来かも……と不安に思ったが――まあ、そんな彼の初めての女になれたのは役得だったかもしれない。あんな風に激しく求められるのも、今後の人生で再び起こり得るかどうか。
 いい思い出として心の中へ大事にしまっておこう。そう昇華しつつある頃だった。試合前のドロップシップ、人気の無い通路で彼に詰められたのは。

「……どうしたの」
「アンタを抱きたい」
「は」
 予想していなかった言葉に間抜けな声が出る。周りを気にして視線を移ろわせれば、それは彼の腕で遮られた。いわゆる壁ドンとやらをされているのだと気がついて、飲み込みきれない状況に困惑してしまう。
「ええと……セックスできなかったの? 他の人と」
「セッ……いや、し……した。したけど、よ……」
「し……したんだ」
 彼はもう他の女を知ったのだと分かると少しもの寂しい気持ちになってしまうが、そんなお門違いの独占欲よりも「なぜ私を抱きたいのか」が引っかかって仕方がない。他に相手がいなかったのなら“二度目”を望まれるのも理解できるが、そうでも無いなら不可解だ。
「あれから何人かと寝てみたけど……あー……何だ、楽しくねえっていうか」
「楽しくない?」
「気持ちいいのは気持ちいいけど、それだけっつーか……」
 セックスができて、ちゃんと気持ちいいなら何も問題無いように思える、けど。唸りながら言葉を探す彼を見て、そんな野暮なことは言えそうになかった。
「アンタとした時みたいに、良くしてやりたいとか、どんないい女でも……、……可愛い……とか、全然思えなくてさ。誰とヤッても、その……満たされない? つーか」
「……」
「だからまた、アンタを抱きたい」
「……、……? 何で?」
「……俺の話聞いてた?」
「いや、何で私なのかなって」
 何故そこで私とまたセックスする話になるのかいまいち理解できなかった。ただセックスしたいだけならまだしも、“私”である必要性。いろんな女の子と夜を共にして、相性がいい相手を見つければいいだけの話じゃないのか。
「アンタとの夜が、忘れられなかった……から、じゃダメなのかよ」
「初めてだったからって美化してるだけじゃない?」
「アンタなあ……」
「私とまたセックスしたところで満足できるかも分からないし……美女たちと寝て来たのなら尚更、舌も肥えてることだろうし。ね?」
「……あの夜はアンタから誘ってきたくせに。何でそんな嫌がるんだよ」
「それは」
 それは、あくまで『童貞を貰う』と言う名目だったからだ。互いにワンナイトのつもりだった。だからあの夜以降、この話題に触れたことも無かったし、次を期待することも無かった。
 なのに今更それを持ち出して「忘れられない」なんて気を持たせるような言い回しをして、なんてずるい男だろうと憤りを覚えてしまう。……勝手にそんな感情を抱いてしまっただけの私が、彼を責める筋合いなんて無いのだが。
「……ずりぃ」
「え?」
「忘れらんねえの、俺だけかよ」
「……そんなこと」
 そんなこと、ない。私だって、あの夜のことは忘れられそうに無かった。だからこそ“いい思い出”として自分に言い聞かせていたのに。
「俺をこんな……抱かせてくれ、なんて頼むようなダセー男にしたんだから、セキニン取ってくれよ。俺に女を教えるって言ったのはアンタだろ。……なあ、他の女とアンタは、どうして違うんだ」
 「そんなの私が知りたい」なんて言葉は強く抱きしめられたせいで口にすることは叶わなかったので、かわりに背中へ腕を回すようにした。やっぱり私は、流されやすい女なのかもしれない。

(2023年4月26日 Privatter掲載)
(2025年9月19日 加筆修正)