いびつを集めて
あなたをつくる
きっと誰だって一生に一度は憧れるはず。四方八方すきなものだけに囲まれた、夢のような暮らし。
それを実現出来るひととそうでないひとの違いは、単純な財力の格差によってうまれるものではないと思う。気概だとか執念であるとか、そういうものを繰り返し何かに注ぎ込める精神力(ただしこれは周囲の大人からワガママという不名誉な言葉で指摘されることがある)がなくてはお話にならない。
ペンを握り、パパを言い負かし、時に暴れ、そして手に入れた宝物で飾られたこの部屋はわたしのお城だ。ここで過ごす間、わたしは世界で一番満たされたお姫様になれる。
ドレッサーから取り出したカギをコレクションケースのシリンダー錠へ差し込む。辺りに漂いはじめた微かな刺激臭に包まれながら、手に取ったお面をそろりと撫でた。文字通りひとの顔面の皮で出来ていて、こめかみに通された革紐で固定が出来る。くしゃくしゃに縮んでいるから、着用しようと思えばわたしにもぴったりだ。表面は油が塗られてツヤツヤしているけど、切り口や加工の粗さからして皮の持ち主に敬意をはらい作成されたものでないことは確かだった。ぽっかりと空いた眼窩には何色の目がはまっていたんだろう。さいごに何を見たんだろう。きっとろくでもない光景なんだろうな、なんとなく、そんな気がしてならない。
指先に引っかかるかたい皮膚の感触は乾いてざらついている。クロロさんの声みたいだ。そう思ったけどひとの記憶なんてまあ当てにならないもので、彼が実際どんな声で話していたのか正確に思い返せた自信はない。
お面とは違うケースで綺麗にライトアップされた宝物、一際大きいビンはわたしのお気に入り。ホルマリンのなかぷかぷか気持ちよさそうに浮いているちいさな赤ちゃんは、膨満した生白い腹部から内臓が透けて見えそうでとてもキレイだ。落とさないようしっかり抱えてベッドに運んだ。宝物が傷付くのは怖い、けれど時々こうして手に取って確かめたくなる。冷たくて重たい、この中に閉じ込められているのは決して損なわれることのない静謐だ。
枕やシーツを腕で押しのけたスペースにだらしなく寝転んでビンを覗いた。薄汚れた世界を知らない、魂の器。いびつさはひとの目を強く引き付けるある種の美しさだと思う。ここへ辿りつくまでの間乱暴に扱われたこともあるのだろう、剥離した皮膚の欠片が雪のように漂う様は宛らスノードームのようだった。きれいだな。きれい。そうね、まるで
「クロロさんみたい」
口にして改めて気が付いた。名前の響きまでうつくしいひと。欲しいな、一度頭をもたげた欲求はもう元通り腹の奥に収まりはしない。嫋やかな曲線で構成されたやさしい顔には似合わない、隆起した喉仏。それが上下してグラスの中身を嚥下するその様が悪夢のように脳裏にべったりとはりついている。彼は夜よりも暗い瞳をしていた。わたしが集めた宝物、そのすべてが霞んでしまうような鮮烈。
あのひとより美しいものはもうこの先一生見つからないんじゃないかと思う。
怖気立つ体に腕を巻き付けて、あと何度こんなふうにして夜を明かせばいいのか分からない。夜毎わたしを苛むものは慕情のもたらす熱なんかじゃなく、紛れもない恐怖だった。
知りたくなかった。絶望はこのビンのように冷たくてあまりにも重いのだ。心を圧しつぶされて喘ぐわたしを、分厚いガラスの奥から虚ろな瞳が見つめていた。