未来視の単眼



 物心ついた時から、なぜだか地に足がついていない心地がしていた。



 うちは近所ではそれなりに知られた剣術道場だ。他の道場なんて知らないが、一度でも外を知った奴らには「おかしい」とかなんとか評されている。そいつらは「なんで剣術とかじゃなくて呼吸云々を最初にやるんだよ!」なんて言っていたがおれが知るか。自分の隙をなくしたり相手の隙を見つけたりするのに呼吸は大切だし、呼吸術の何がおかしいってんだボケ。と言うと、「呼吸術って何だよ!」と騒がれた。しまった。なんでか道場では教えてる奴と教えていない奴がいるんだった。つまり彼奴らは教えられていない部類だったのか。つくづく失敗した。
 ぎゃあぎゃあ未だに喚く奴らを無視しながら考えに耽っていると、
「にいちゃん、おとうさんがなんか呼んでるよー!」
そう言って、末の妹の千鶴が入り口の方から喚く奴らに負けずどうどう声をかけてきた。我が妹ながら、まだちいさいのに大したやつだ。声もしっかり腹から出ている。

 うちには千鶴の他に、血は繋がっていたりいなかったりする弟妹が三人いる。おれは長男だ。それなりに大きな家なので、おれ含む子供四人を養うことはそう難しくはないのだ。両親が言うには拾ったのはみんなおれらしいが、記憶はない。そして聞いたこともないので、実際に誰が実の兄弟でないのかどうかは知らない。育った環境で、血の繋がりなど関係なく結構みんな似たような感じに育つし。……おれたちはペットかなにかか? なんだか虚しくなってしまって、考えるのをやめる。
「にいちゃん?」
いつの間にここまで来たのか、首を傾げた千鶴がおれの顔を下から覗き込んでいる。そのふくふくとしたやわらかい顔を手で包むようにして、目線をあわせる。
「ちづ、にいちゃんはちょっと父さんと話してくるから──その間、彼奴らが怠けないように見張っててくれないか?」
彼奴ら、というところでまだ喚いている奴らに向けてちらりと目線をやる。

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