必要とされたかった古橋の話


親から愛情を貰わないで育った子供がどうなるか知っているか?非行に走ったり、何かに依存しやすくなったりするそうだ。中には泣いても構って貰えないから泣かなくなり、笑いかけられたことがないから笑えもしない。そうして無表情になっていく場合もある。

つまり俺の事だ。

生まれた時からネグレクトを受けていて、何をやっても両親は無反応。たまに思い出したかの様にご飯を与える。だから俺の幼少の頃の記憶は常にお腹を空かせていた。

別にこの過去を悲観している訳じゃない。

腹は空かせていたがちゃんとここまで成長したし、一言も話かれられはしなかったが衣類だって与えられてた。世界的に見れば十分恵まれてる方だ。けど、だけど、少しくらい愛情を望むことの何がいけないのだろう。

一瞬でもいいから自分を見てもらいたかった。

その為に、目の前で喚いた事もあるし、目の前でわざと怪我したこともある。幼稚園、小学校と問題ばかり起こしていた。けれど何をやっても自分を見てくれず、そこに愛はおろか憎しみの感情すら無いことに気づいた。両親は俺に対してただただ無関心を貫いている。そして俺は諦めた。もうどうしようもできない、と。

しかし、愛情を貰うことを諦めてからしばらくして、俺は気づいた。別に、何も両親から愛情を貰う必要は無いことに。そして、愛情をくれないならくれる状況にしてしまえばいい事に。

ターゲットを選ぶ条件は特にない。ただ、追い込みやすそうで、簡単に人を信じやすそうな人を選んだ。案外そんな人は沢山居て、その中から適当に選んだまでだ。

こんな俺に選ばれた人は可哀想だとは思う。でも、最終的には俺からも愛情をあげているので問題ないだろう。本人は幸せな筈だ。相手の周りの人に何かを言われる時もあったけど、気にしない。周りが気づいた時には俺しか見えないようにさせてるからな。

そうして追い詰めて、付き合って、俺が飽きたら捨てて、また別の人を探して、を繰り返した。そんな時、珍しく周りの人が気づくのが早い時があった。まだちゃんと貰ってないのに、引き離された。なんて酷い奴らだ。自分から捨てるのは問題ないが、意図しない形で離されるとどうしようもない虚無感に襲われる。

もう一度やれば戻せるのだろうけど、そんな気力も起きないまま、学校が始まった。そこで話しかけられたのが花宮だった。




「キミが噂になってる古橋くんかな?」

「噂?心当たりないな」

「本当?。誰かをストーカーしてるとか、夏休み中に彼女を病院送りにしたとか、彼女の友達をボコボコにしてたとかいう物騒な噂なんだけど、知らない?」

「心外だな。彼女は彼女の両親が病院に入れさせたんだ」

「あれ、他の事は否定しないんだね」

「事実だからな。それを聞いてお前はどうしたいんだ?」

「お前って……酷いな。俺には花宮真と言う名前があるんだけど」

「あぁ、名乗ってくれなかったので分からなかった」

「古橋くんはあまり周りの事に興味無いんだね。俺、これでも結構有名だと思ってたけど」

「否定はしない。名前は聞いたことあるが、顔までは覚えないからな。で、結局何の用だ?」

「古橋くんをバスケ部に誘おうと思って」

「は?俺はバスケ経験ないぞ?」

「才能はあるよ。それに、プレイヤーがどうしても嫌ならマネージャーでもいいんだけど、どう?」

「何故俺なんだ」

「だって、古橋くん誰かに尽くすの得意じゃん?ちょうどそんな人材が欲しかったんだよね」

「そんな事初めて言われたな。が、断る。俺には向いていない」

「ちゃんと愛情もあげるよ。ラブじゃなくてライクだけど」

「は?」

「あぁ、どうしてその発想に至ったか知りたいのかな?まぁ普通に古橋くんの過去を調べてそうかなと予想つけただけなんだけど、その様子じゃ当たったみたいだね」

「学年一位の天才は凄いな。けど、お前が裏切らない保証はない」

「なんだ、俺の事少しは知ってたんだね。名前で読んでくれてもいいと思うけど、まぁいい。なら、契約しよう。お前が俺に従う限りるお前の望みは叶える。もし俺が裏切ったなら、煮るなり焼くなりすればいい。その時俺は抵抗しない。仮にお前が従いたくないと思ったのなら、言ってくれれば関係を解消する。普段俺の言う事を聞いているだけで、最終的な立場はお前が上だ。なんなら紙に書こうか?」

「いやいい。それよりやはり分からない。さっきも聞いたが何故俺なんだ?その条件なら相手が俺でいる必要はない」

「ふはっ。理由もなにもねーよ。ただ、たまたま噂を聞いて、その噂の主がちょうど俺が求めてた人材だっただけだ。噂を聞いてなかったらお前には会ってなかったし、噂を聞いてても相手がお前のような奴じゃなかったら確認だけで終わっていた。そうだな、俺は信じていないが運命だとでも思っててくれ。で、結論は?」

「そうか……わかった。俺は花宮に従う事を誓おう」

「そう言うと思ったよ」

「ところで先程の口調はなんだ?途中で変わっていたが」

「そっちが素だ。慣れろ」

「わかった」




俺から選ぶことはあっても、選ばれることはなかった。そんな時に初めて人から必要とされた。こんな俺の為に契約しよう、とまで言ってくれた。

そんな花宮に尽くしたいと思うのは自然だろう?
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