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珍しくカラスから俺に質問があった。


「どうしてその先輩を助けようとするの?」


どうしてか俺が聞きたかった。

もう最初の記憶なんてほとんどなくて、でも助けようと思ってた先輩は一番最初の先輩だけで、今の先輩をどうして助けようとしてるのかもわからない。

繰り返してるのはもはや意地だった。

あぁ、でも、そうだ。


「先輩が俺を助けてくれたんだ」


そう、確か理由はそうだった。

俺の母親は厳しい人で、躾と称して俺に暴力を振っていた。俺はそれが当たり前だと思ってたんだ。

テストで良い点取れない俺が悪い。食事をするスピードが遅い俺が悪い。マナーをちゃんと守れない俺が悪い。言うことをちゃんと聞けない俺が悪い。苛立たせてしまう俺が悪い。良い子じゃない俺が悪い。

悪いのは全部自分。

どっかの良家の娘だった俺の母親は無駄に金だけはあったから、周囲は俺に対して口出せず、当時暗かった俺は仲の良い人なんて1人もいなかった。

でもそれも俺が悪い子なんだから仕方ないと諦めてた。

その意識を変えてくれたのが先輩だ。

テストで良い点がとれないのなら分からないところを勉強させればよかった。食べるスピードが遅いのなら食材を細かく切ったりして工夫すればよかった。マナーはこれから覚えていくもの。子供は母親の道具じゃない。苛立たせてしまうとか何も俺は関係ない。最初から悪い子なんていない。

どんな理由でも暴力は虐待に当たる。俺は何も悪くない。悪いのは俺の母親。

だからといって母親の態度が変わることはなかったけど、少なくともそのおかげで俺は少し前向きになった。

初めて頭を撫でてくれた相手は先輩だ。

初めて俺を褒めてくれた相手も先輩だ。

初めて俺に優しくしてくれたのも先輩だ。

そう、だから、そんな先輩だからこそ俺は先輩を救いたいと思ってたんだ。

何回も繰り返しているうちに母親のことなんてどうでも良くなっていたから、忘れていた。

そう考えると確かに今はもう先輩に助けられていない。理由なんてもう無くなってしまったのかもしれない。

けど、やっぱり、俺は先輩に生きててもらいたい。


「ふーん」

「興味がないなら聞くなよ」

「いやいや、面白かったよ。じゃあやっぱり今回も戻るんだね?」

「当たり前だ」


少なくとも繰り返しているうちに手が真っ黒に染まって壊れかけてる俺より、綺麗で真っ当に生きている先輩が生き残る方が正しい。