判決は
人は皆、死んだら地獄で裁判を受ける。
1つ例を挙げよう。中高ではバスケで悪童と名を馳せ、ラフプレーで多くの人を苦しませた花宮真という人物。彼は、26歳という若さで亡くなった。原因は交通事故だ。
そんな彼も他の人と同じように地獄で判決を受けていた。果たして彼の判決はどうなるのだろうか。
例えば、花宮真を知る人物に「花宮は天国と地獄、どっちに行くと思う?」という質問をすれば、全員が全員「地獄」と口を揃えて言うだろう。
けれど………
「判決、花宮真は天国行きとする!」
何故かこうなった。
「自分で言うのもどうかと思うんですけど、本当に俺が天国行きでいいんですか?」
言われた本人もこう困惑している。
「いやでも、地獄………いややっぱ天国…………うーん…………………」
そして判決をだした
そこに
「言った後にグダグダしない!」
と、鬼灯の蹴りが閻魔大王に入った。
「あべしっ …………ちょっと鬼灯君何するのさ!」
「判決をさっさと決めない閻魔大王が悪いんですよ」
「いやだってさー、この子性格的には絶対地獄行きだと思うよ?でもさー、決定的な悪事も無いし、むしろ多くの人を救ってるんだよね」
「だってもでももありません!事情は分からなくもないですが、この後も判決を待ってる人が大勢いるのですから、さっさとして下さい」
「うーん………悩むなぁ」
閻魔大王が一度花宮に天国行きの判決を出し、今もこんなに悩んでいるのにもちゃんと訳があった。
花宮真が生きてる時、彼は他人の不幸を公言する程人の絶望というものが好きだった。それは生まれつき、というもので一番古い記憶でも、幼稚園の時から人を陥れるという行為をしていた。それは歳を重ねるごとに酷くなり、それを隠すために猫かぶりもどんどん上手くなっていった。中高時代なんかは、皆さんご存知の通り青春を謳歌している人を絶望に落とす為にバスケでラフプレーをやるという徹底ぶりだ。
そんな彼は高校でバスケを辞めた。
さて、では大学時代に入ったらどうなるのかというと、大学生になったからといって彼の性格が落ち着くことはなかった。しかし、ちょっと人を陥れる方法が変わったのだ。
大学でも青春、という言葉を使う人はいるが、それでも少ない。そしてその青春の中身は、サークルや恋人などに当てはめられて使われる。つまり、中高時代の時のように青春を謳歌しているという人が極端に少なくなったし、仮に青春を謳歌しているという言葉が当てはめられる人が居たとしても、その人が絶望させがいのある常に頑張ってるいい子ちゃん、とは限らなかった。
ということで、花宮真は絶望に陥れる人種を変えた。彼の新しいターゲットは、自分が人生の勝ち組だと思い込んでいる奴だ。
そういう風に思い込んでいる奴には必ず弱点がある。勝ち組になる為にいろいろやった事だったり、勝ち組だからなんでも許されるとやった事だったりと様々だが、世間一般にバレるとちょっと立場が悪くなる事だ。
彼はそれを探り当て、周りにその事実をばら撒く。大学生になっても優等生の仮面を被ってるから、自分からはやらない。別に自分でやっても問題ないだろうけれど、そうする事によって敵が増えるのが確実だったので、それを避けたのだ。
だから彼は自分の周りの人を上手く操り、陥れたい人の情報をばら撒けさせる。そうして陥れ、自分は勝ち組だと思い込んで自信満々な顔をしていたのが負け組になって一気に絶望する人の顔を拝むのだ。
自分の望み通りに人を動かし、自分の望み通りの結果まで持っていくことが出来る彼の人心掌握術は凄まじい。
そうして、ある意味悪い方に変わった事で、花宮真は自ら悪事を働くことがなくなった。それは社会人になっても変わらず、自らの手は汚さないまま周りの人がそう動くように仕向け、自分の都合のいい状況と人の絶望する様を手に入れるのだ。
周りの人は当然彼に自分が操られてるなんて気付かないし、仮に気づいたとしても、大体の人が彼を盲目的に慕っているので問題はない。
というかむしろ、陥れられる人は陥れられるだけの理由がある人なので、誰かが花宮に陥れられることによって、別の誰かが助かっていたのも確かだった。
そして、花宮真が誰かを陥れようとしていない時は、当然猫を被ってる。陥れようとしていなくても本性がバレてる身内以外を相手にする時は猫を被ってる。
そんな猫被り中は周りの人が自分の評価を上げるような事しかしていない。だから、当たり前のように彼は人助けをしていた。
こうして彼は多くの人を助ける事となった。
では彼がやった悪事の部分はどうなるのかというと、まずは小さい頃に人を陥れた行為。やってるのは子供だ。地獄行きになる様なレベルの事はしていない。それこそいたずらっ子で済まされるだろう。
次に、中高時代のラフプレー以外の行為。これは、意外にも少ない。バスケで十分絶望顔が見れるというのもあったし、日常生活では猫かぶりをしていたから人を陥れることは出来なくもないが少々めんどくさくてやっていなかったのだ。中学の時は妖怪というストッパーがいたのもある。高校の時、彼が監督になる際少々揉めたが、彼が監督になったのはすでに掌握していた他の部員あってこそだったし、そもそも元々の監督は多くの部員から嫌われるだけの事はしていたので、花宮が何もしなくても勝手に堕ちていただろう。
大学時代は上記の通りだ。
で、問題のラフプレー。故意に人を傷つけたのなら当然地獄行きだ。けど、それが故意ではなかったとしたら?それは、グレーゾーンに入る。いや、ラフプレーは故意だった。けれど、それで試合中笛を吹かれた事はない。対戦相手はラフプレーされたと思っているだろうけど、審判、ひいては見てる周りの人は故意じゃないと判断をした。更に言えば、ラフプレーは蜘蛛の巣を作る作戦の一つでもあった。勝つ為ならなんでもやって良いという訳ではないが、それでもある程度は許される。それこそ勝ち組云々の時に出てきたちょっとヤバいことのように、よっぽど致命的でなければ、仕方なかったんだねと黙認する人も多い。実際に"こうでもしなきゃ勝てない"という言葉で、なら仕方ないのかなと思った人もいる。その後に"んなわけねぇだろバァカ"という発言が続くことは言ってはいけない。
さて、多くの人が故意ではないと判断し、勝つ為にやったラフプレーは本当に地獄行きになるほど悪い事だったと言えるのだろうか。絶望する姿を見たい、そんな理由が根底にあったとは言え、そのラフプレーから地獄行きです、なんて断言出来るほど裁判は簡単じゃない。
ここで問おう。果たして彼が、花宮真がやった悪事はなんだろうか?
そう考えた時、思いつくのはいくつもあるけど、断言できる悪事はない。怪しいのはいくつもあるけど、どれも断言出来るものではないとするならば、そして多くの人を救っていたとするのならば、判決が天国行きに傾くのも納得出来る。
それでもこうして閻魔大王が判決を悩んでいるのは、やっぱり花宮真の性格が悪いからに他ならない。実際に、ここまで人を操る才能と頭脳、猫かぶりをする演技力、望む結果が出るまで耐える忍耐力などがなかったら、阿鼻地獄行きになる事をやらかしていそうなほど彼の性格は歪んでいた。でも彼は猫を被っていた。自分に返ってこないように周りの人を使っていた。そして多くの人を救っていた。それが出来るだけの才能があった。
性格が悪いだけでは、人を地獄行きには出来ない。
「……………よし!決めた!!やっぱりで天国行きのままで!!次は良い性格に生まれてね」
そうして花宮真の判決は天国行きに決定した。
「本当に天国行きになりやがった……」
本人もビックリだ。
その判決を聞いて、閻魔大王の判断を珍しく黙って待っていた鬼灯が口を開いた。
「はぁ、ようやくですか。では花宮さんが天国行きに決まった事ですし、ちょっと貴方にお話があるのですが」
「あ、はい。なんですか?」
「貴方の性格はもう十分にわかってますので別に猫を被らなくてもいいですよ」
「そうかよ。じゃあ何だ?」
「その性格とその頭脳、本当に素晴らしいと思います。ぜひ地獄で働いてもらいたいのですが、いかがですか?」
「はぁ!?」
「ちょっと鬼灯君何言ってるの!?」
「地獄行きの判決を受けた人を罰も受けさせないまま地獄で働かせるのは問題になりますが、天国行きになった人が地獄で働かせるのは問題ないですよね?実際に似たような人はたくさんいます」
「そ、そうだけどぉ〜……」
「ということで、どうですか?」
花宮は少し思案した様子を見せ、答えた。
「断る。俺がそんな事しなくちゃいけない理由はないだろ」
人の言うことを聞いて誰かの下で働くことを簡単に容認するような性格じゃなかった。
けど、それで優秀な人材を諦める鬼灯でもない。
「本当にいいんですか?貴方はこれから転生するまで天国で待つことになります。天国には天国行きになった人、つまり良い人しかいない訳ですから、貴方は良い人に囲まれて暮らしていく事になります。貴方確か、良い人は嫌いでしたよね?」
それを聞いて花宮は固まった。確かにそんな場所で暮らすのは嫌だ。けれど、目の前のこいつの言う通り、地獄で働くのも嫌だ、と。
「ちなみに地獄で働けば、貴方の好きな人が絶望する様はいくらでも見れます。地獄なんてある訳ないと思っていた人達が地獄に落ちて罰を受ける訳ですから、判決に絶望する人が多いんですよ」
「じゃあ働くわ」
今まではなんだったんだというほどの即答だった。どれだけ彼は人の絶望する姿が好きなのだろうか……
「良い返事を頂けて嬉しいです。では所属ですが……私の直属の部下ということでよろしいですか、閻魔大王?」
「うぇ!?え?あ、いんじゃない?」
急に話を振られた閻魔大王はよく考えずにオーケーしてしまった。それで本当にいいのか閻魔様、さっきまで地獄行きか天国行きか悩んでた人だぞと思わずツッコミたくなる。
そうこうしているうちに鬼灯と花宮とでは話が進み……
「ではこれから生活する部屋に案内しますね。生活用品などのものは給料がでるまで経費として落としますので何か買う際は私に言ってください」
「わかった」
「詳しい仕事内容はまた後で話しますが、とりあえずは地獄について知ってもらいたいので、部屋の次は図書室に案内します。花宮さんなら1週間くらいで地獄の仕組みなどを覚えるでしょう」
「了解」
こんな感じで、花宮真は地獄で働く事になった。
「うわー、鬼灯君二号が出来る気しかしないよ………」
そんな閻魔大王のぼやきは誰にも聞かれる事なく消えていった。