紫煙の行方
夜空を仰いで、長く細く、息を吐き出した。
吐き出した吐息に乗って、紫煙がほんの僅か星を翳らせ、すぐに消える。
どこか冷たさを含んだ夜風が、切り揃えられた京の髪を弄んで、吹き抜けて行った。
何の気無しに風の行方を手繰って、風下を振り返った京の双眸は、物陰の見習いを捉えた。
「……あ、京さん」
恐らく、隠れていたのだろうと思った。
その理由までは、京にも分からないが。
バツの悪そうに視線を逸らす見習いに対して、京は直感のように、そう感じた。
「……見習い」
「ごめんなさい、覗き見なんてしたくなかったんですけど」
咎めたつもりは無かった。
京としてはやましいことをしていたつもりは無いし、見られても大して気にはしていないのだが。
見習いは、罪を告白するように、重い口を開いた。
「……煙草を吸ってる京さんを見るのが、すごく新鮮で。声をかけるタイミングを見失っちゃったんです」
新鮮。
弁明するような見習いの言葉を、京は口の中で転がして、反芻する。
そういえば、見習いの前で煙草を吸うのは、初めてだったかもしれない。
ライブや練習の為に立ち寄るエデンでは、煙草を吸う機会など無かった。
その上、見習いと会うような場所では、往々にして煙草を吸うタイミングに恵まれていなかった。
成程、京が煙草を嗜む姿を知らないのも、仕方が無い話だった。
「……嫌だったら、すまない」
昨今、煙草は嫌悪の対象になることが多い。
灰皿に吸いかけの煙草を押し付けて潰し、京は目を伏せた。
吸いかけではあったが、それを惜しいとは思えない程に、京は見習いのことを思っていた。
見習いに嫌われるという可能性を潰せるなら、煙草の一本や二本など、惜しくはない。
「いえ、良いんです!」
しかし見習いは、慌てたように頭を振って、否定した。
「煙草を吸ってる京さん、すごく格好良かったですから! 嫌じゃ、なかったです」
夢にも思わなかった言葉に、京は一瞬、理解が追いつかなかった。
しかし、やっと思考が追いつくと、京はふっと息を吐き出し、緩く笑った。
「……そうか。良かった」
京が吐き出した安堵のため息は、紫煙こそ纏ってはいないものの、確かな煙草の香りがした。