シガレット・キス
まず、苦いと感じた。
次に、ふうっと吹きかけられた煙が気管に送り込まれて、むせ返った。
気管に侵入する慣れない煙は到底受け入れられるものではなくて、結局ろくに息も吸えないまま、私は煙の全てを吐き出してしまった。
生理的な涙で滲んだ視界の中で、私の口から吐き出された煙が消えていくのが、ぼんやりと見えた。
(……嗚呼、勿体ない)
折角、真琴さんから貰った煙だったのになあ。
消えた煙を惜しむばかりの私の背中を、躊躇いがちにさする気配がした。
「……いい加減、諦めたらどうですか」
背後から聞こえた声は、呆れをたっぷりと含んでいた。
「そもそも、煙草の煙が吸いたいなら、自分で煙草を吸ったら良いじゃないですか。何でわざわざ僕の吸った煙草の煙を吸いたがるんですか」
どこか苛ついた、棘のある言葉だけど。
真琴さんは、怒ってない。
むしろ、心配さえしてくれているのだろう。
表情を見れば、何となく分かる。
確信なんて持てない、何となくでしかないけれど。
「……だって、真琴さんと、共有したかったんです」
脈絡の無い私の答えを、真琴さんは黙って聞いていた。
口を挟むことも、話を遮ることもせず、ただの一度も口を開かず、ただ聞いてくれていた。
「煙草の煙を分け合って、肺を真っ黒に染めたかったんです。真琴さんと同じ煙を吸って、真琴さんと同じ臓器を、真琴さんと同じ色に染め上げたかったんです」
おそろい、というものは、きっと沢山ある。
お揃いのアクセサリー、お揃いの洋服、お揃いのあれやそれやは、それこそ数え切れないくらいにあって。
それでも、それらだけでは、満足出来なかった。
形だけのお揃いでは、まだ足りない。
魂なんて、目に見えない不明瞭なものにも興味は無い。
ならば、この身体をお揃いにすればいいと気付いたのだ。
身体の表面、目に見える部分ではなく、目には見えない内臓そのものの色を、おそろいにすれば良い。
「……全く、見習いさんは時々奇妙なことを言い出しますよね」
それまで口を開かなかった真琴さんが、ぽつりと言葉を漏らした。
私が何かを返す間も無く、真琴さんは煙草を深く吸って、そのまま私に口付けた。
苦くて、苦しくて、たまらない。
でも、その唇を離したくなくて、こみ上げる咳嗽を押し殺した。
ふうっと齎された紫煙を、餌を強請る雛のように、貪欲に肺に吸い込んだ。
嗚呼、やっと、お揃いになれた。
紫煙はきっと、目には見えない私の内臓を、黒く彩ってくれただろう。
「真琴さん、これで、お揃いになれました」
真琴さんから唇を離して、私は恍惚と笑う。
口の中には、真琴さんと同じ香りが充満していた。