あの日への追憶



「まだこんな場所があったのか」

 しみじみと、どこか苦笑を織り交ぜた口調で、レイが呟いた。

 ビルの隙間、再開発に取り残された小さなそこは、公園になっているようだった。
遊具が多い訳でも、とりわけ珍しい遊具がある訳でもない、こじんまりとした公園だ。
だがそれでも、三人ほどの子供が、きゃらきゃらと笑い声を立てて遊んでいた。

「少し、見ていって大丈夫か?」

 見習いに、断る理由は無い。
レイの提案の理由は定かではなかったが、かと言って断るほどの用事を持ち合わせていない見習いは、短く頷いて、了承を示した。

「良いですよ。特に用事も無いですし」
「ん、ありがとな、見習い」

 レイは、何かを懐かしむように目を細めて、公園に足を踏み入れる。
まるで夢の中を歩いているような足取りだと、見習いは思った。

 ふらついている訳では無い。
地に足が着いていない訳でも無い。
それなのに、まるで薄い膜で隔てられた世界を進んでいるようだと感じたのは、公園という場所故だろうか。

 夢見がちな足取りで、レイは特別陽当たりの良いベンチの端に腰掛けた。
見習いも、自分だけ立っているという状況に耐え切れず、特別陽当たりの良いベンチの、レイとは反対の端に腰掛けた。

 風の音がふわりと揺れて、はしゃぐ子供達の声を運ぶ。
「……ここは」
レイが、ぼんやりと口を開いた。

 独り言のように、誰に言うでもないように、ぽつりぽつりと言葉が漏れていく。
見習いは、その一言一句を聞き漏らさないように聞き耳を立てた。

「ここは、昔何度か遊んだ公園なんだよ。進と、オレと、仲が良かった幼馴染みの子と、ああやって遊んでた」

 レイの視線の先では、名前も知らない子供達が、声を上げて笑い、遊んでいる。
それでもきっと、レイはその子供達を見ていなかった。
レイが見ているのは、幼い日の自分達なのだろう。
はしゃいで回って、何よりも楽しいと思えた瞬間を、きっとレイは見ているのだろう。

 それを悟ってしまえば、見習いはもう、何も言えなかった。
ああ、だとか、はい、だとか、心ここに在らずといった相槌を打つのが、精一杯だった。

「……楽しかったな、あの頃」

 それが、決定打だった。
見習いは、とうとう相槌すら打てなくなって、俯いた。

 レイの声色と視線に浮かぶ感情の色が何なのか、いっそ分からなければ、どれだけ幸福だっただろう。
それら全てが分かってしまうから、見習いは、引き裂かれるよりもずっと痛くて苦しい感情を、胸中で燻らせることしか出来ない。

 拳を強く握り締めて、見習いは欠けた月と同じ形をした爪の跡を、四つ手のひらに並べる。
「そう、だったんですか」

 手のひらに浮かぶ、欠けた月みたいな形の爪跡をなぞって、見習いは笑った。
つんと痛む鼻の奥を、今は誰にも、悟らせたくなかった。