月下美人
部活終わりや休みの日に何度か会うようになり
次第に彼への感情が母性的なものだと思っていたものが
実際は異性として好きなのだと言うことに気付いた。
と言うか 気付いてしまった、の方が正しい気もする。
人間とは不思議なもので、それに気が付いてしまうと
今まで普通だったものが途端に狂い始める。
「何かあったか」
「え"?!あ、いや、何でもない何でもない!!」
流石の彼も此方の異変には気付いているらしい。
かと言って心配されると余計焦ってしまうのもまた事実。
"相手はまだ高校生。私は廿をとうに超えた社会人。"
"たかが5歳、されど5歳。"
そんな言葉が頭の中を蹂躙する。
今日は駄目だ、早く解散して冷静になろう。
そう決意した瞬間だった。
「何でもない訳ないだろう。何かあるなら…」
「それは待って!!!!」
「…は?」
目の前には眉を顰め険しい顔をする彼。
そんな彼の顔を見て脳内で全力土下座をする私。
なんなら今すぐにしてもいいレベルだ。
「あ、その、だから…そうじゃなくて…」
「…らしくないな。別に無理に話せとも言わないが」
そう言われてハッとする。
この時何故かここで言わなきゃ駄目だと思った。
この際どうにでもなってくれ。
散るなら潔く散ってやろう。
「あ、のね、笑わないで聞いて欲しいんだけど、
私、瑠嘉くんの事が好き、です。」
自分でも分かるくらい顔が熱い。
目の前にあるはずの顔が見れないでいる。
「そんな事、何故笑って聞く必要がある」
「え?何でって…ほら、私達5つも離れてる訳だし…」
「気にしていたのは歳の事だけか」
「だけって…まあ、そうだけど…」
消え入りそうな声で答えれば彼がフンっと鼻を鳴らした。
「今までもそうだが、これだけ家の事を考えずに
人付き合いをしたのは初めてかもしれない。」
「家の事………あっ!!」
彼に言われて気付く。
そう、彼の家が龍音寺の分家であるという事を。
「ごめ、私ってばド庶民の癖に超不躾だったよね。
申し訳…」
「今更何を言う。
寧ろそれが良かったのかもしれない。
睦希と居ると何にも縛られず、私も自由に居られる。
…これは特別な感情、なのかもな」
「それって…両思い、なのかな…?」
「…否定はしない。」
「え、それじゃあ…!!」
期待の眼差しで彼を見ると表情こそ変わらないが
私を見ては小さく頷いた。
「瑠嘉くん〜〜〜!!!」
じわりと目頭が熱くなったかと思えば、
目の前の彼に思い切り抱きついていた。
人通りは少ないとはいえ恥ずかしいのか、
彼はそんな私を剥がそうとしている。
ここからが、彼と私の新たなスタートとなった。