蒸し暑い夕方を漣先輩と、肩を並べて歩いていた。私はさっき寄ったコンビニで買ったアイスを開ける。漣先輩は稽古を終えたばかりだからスポーツドリンクを飲んでいる。緩められたネクタイや捲られた袖に、普段は礼儀作法に厳しい人だがやはり人並みに男子高校生だなぁ、と感じる。悪い意味ではなく。鍛えられた筋の見える腕や首元に落ち着かない気分になってしまうのだ。

「うまいか?」
「はい、これ好きなんです」

私を見下ろす先輩の目は穏やかな色をしている。先輩は、私が美味しそうに食べるのが好きだと言って、よくこうして食べているところを見つめてくる。あまり見られると恥ずかしいし、美味しそうに食べる、というのであれば先輩こそそうだ。おにぎりを食べる時なんかは味わうようにしてよく噛んで食べている。

「……ひと口食べますか?」

無言でこちらをみつめる先輩に恥ずかしさが勝った。食べかけのアイスを差し出せば、ひと口だけ、と先輩は腰を折って顔を近づける。熱くて、大きな手がアイスを差し出した私の手を掴む。顔が近いとか、口が大きいとか、手が骨ばって硬いとか、そういう事を考えているうちに先輩は離れていく。

「ああ、確かにこれは甘すぎなくていい」

口許を指先で拭った先輩が歩き出した。ひと口くらいなんともないつもりだったのに、なんだか意識せずにはいられない。いつまでも歩き出さない私に不思議そうな顔をした先輩に、ひと口が大きすぎると誤魔化すように抗議した。

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