レモン色に愛された

「依、依」

そう言って右手に抱きついてくる真純ちゃん。この前、交番であった時から懐いてくれて、それからちょこちょこ一緒に遊んだりする。というか、完全に出待ち状態。私の通学路が例の交番前だと知った彼女は、会いたいときはそこで待つことにしたらしい。私を見つけると八重歯を見せて笑いながら飛びついて来てくれる姿が、なんとも言えないくらい可愛いから悪い気はしない。そして驚くことに、彼女は私が通う高校の中で歴代最高の秀才と名高い赤井くんの妹だという。この前は彼が忘れたお弁当を届けに行く途中で道に迷ってしまったらしい。強請られて学校に一緒に連れて行くと、ちょっとした事件になってしまった。赤井くんの驚いた顔には失礼だが笑ってしまったけれど。

「キチ兄が迎えに来てくれるから、それまで遊んで!」

「うん、いいよ。お迎えは何時?」

「あの交番に6時!」

きゃいきゃいと嬉しそうな真純ちゃんに手を引かれ、近くの公園までやって来た。彼女は女の子の割には活発で、男の子のような遊びを好む。これも上に兄がいる影響だろうか。今日も顔見知りの男の子たちとボールを追いかける彼女は、楽しさいっぱいに輝いてる。そんな真純ちゃんの横顔を見て、最近引っ掛かりを覚えるようになった。

誰かに似ているのだ。それは誰だか分からないけれど、確かに私は知っている気がする。彼女と似たような顔立ちの男性をどこかで見たのだ。はて、何処だっただろう。今生か、あるいは前世か。そう、あれは確か昔読んだ漫画の…。

「っ!」

記憶を掘り起こし答えが出かかったところで、頭に激しい痛みが走った。思わず米神を抑えてしゃがみこむ。何かを思い出そうとすると頭が猛烈に痛くなるのは今に始まった事ではないけれど、今回のはだいぶ酷い。真純ちゃんが私の異変に気付いて、慌ててこっちに走ってくるのが気配で分かった。

「依?!大丈夫?頭痛いの?」

「ん…大丈夫、だよ。すぐ、治るから」

思い出すことをやめて呼吸を整えれば、段々と痛みは引いてくる。心配そうに見上げる真純ちゃんを安心させるように、その猫っ毛でふわふわした頭を撫でた。いつものように痛みに負けて思い出すことを諦める。彼女が誰だったとしても、可愛い女の子にはかわりないのだがら。

「心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ」

「…ほんと?」

「うん」

「ほんとのほんと?ボクと遊びたくないとかじゃない?」

「ないない。真純ちゃんと遊べて、私は楽しいよ〜」

ぎゅーっと抱きしめると、彼女も必死になって抱きついて来た。何をそんなに心配しているのかは分からないけど、その必死な横顔に何となく彼女のお家も複雑なのかなと予想がついた。お兄ちゃんとはだいぶ歳が離れているし、きっと寂しいのだろう。

「ほらほら、時間がなくなっちゃうよ!ブランコでも漕ぐ?」

「うん!」

繋いだ手を離そうとしない彼女。ブランコまで行くと一緒に乗りたがったので、膝の上に乗っけて緩やかに漕ぎ出す。不安定な膝の上で絶妙にバランスをとる真純ちゃんは、にこにこしながら見上げて来た。羨ましいことに運動神経もいいらしい。同じように笑顔を返すと、ほっぺにチューされた。吃驚して目をパチパチさせると、真純ちゃんは飛びっきりの笑顔で言った。

「ボク、依が大好きだよ!」

不覚にもキュンとした。君はお姉さんを殺す気か。