平和に行きましょう。

ぼつ


 楽巌寺筆頭の保守派と五条悟の革新派で、パワーバランスが相当混沌としているのは術師の中では周知の事実だ。山桜桃の家はどっちつかずの日和見主義で、そのせいでどっちからも睨まれるという自業自得な憂き目にあっている。


 バチが当たったのか何なのか、一回り年上の男の元へと嫁ぐことになった。
 顔など見たことは無い。ただ呪術師の名門出身の男はどいつもこいつもろくでもなく、女を孕み腹扱いするくらいは平気でやる倫理観が平安時代止まりなので期待などしない。更に言うと、事前情報は「気性が荒く最早外道」「任務中に無関係の一般人も殺そうとした」「期限を損ねると腕の1本は取られる」と悪辣ここに極まれりときた。
 人生終わったなぁ、と山桜桃は死んだ目で鏡向こうにある自分の顔を見つめる。悲しいことに義務教育はきちんと受けていたから、これが世間一般から大いにかけ離れた時代錯誤の結婚だと知っていた。高専にも友達が少なからずきちんといたから、尚更友達たちを思い出しては自分が惨めでならない。本当なら高専を卒業してからのはずだったのに急に向こうから推し進められたせいで、訳もわからず碌な挨拶も出来ずに東京から去ることになってしまった。
「お嬢様、美しゅうございます。きっと森さまも喜ばれますよ」
「……ありがとう」
 掲げられた鏡に映るのは丁寧に化粧を施された女の子だった。覚悟を決めて暗い眼をしている女の子。
 生まれてこのかた話はおろか対面すらしたことのない男の為に、山桜桃は己の全てを明け渡すのだ。
 だったら、男の全てももらってやる。






































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