「あ!ぁっ、ああぁぁぁっ!まっ、て…っ!」


「……またない」


「ひ、ぁぁっ!い…や……あぁぁ!っっ!」


 ぐちゅん、粘つく水音と共に奥を穿てば、逞しい胸が容易く跳ね上がり、そうして小刻みにびくびく震え始めた。きっと酒のせいだけではない、淡い桃色に染めたみたいに色づく身体が及川を呼ぶ。浅く、ゆるく、時おりがつがつと深く、抽挿を繰り返しながら、汗ばむ胸に手のひらを這わせた。伝うぬるりとした粘液の感触は、間違いなく岩泉の吐き出した飛沫。これが幾度目のものなのかは及川にもわからない。実際いまだってイッている。モノから勢いのない白濁をとろとろとこぼして。イッてるから待ってと小さな悲鳴を上げ、イきながらイッているのだ。快感は上書きではなくて、果てのない増幅。怯えすら見せる岩泉をもっと追い込みたくて、いいところをごりごり擦り上げながらナカを犯した。締め付けをゆるめることができたなら、快感もほんの少しは逃せただろうに。ぎゅうぎゅうと及川に縋る内壁は、自ら苦痛にも似ている過ぎた快感を貪る。ぽたり、及川の顎を伝い汗がひとつぶ腹に落ちた。途端にきゅっと力の入る腹筋とナカ。何とも健気でいとけなくて、愛くるしい反応。やっぱり壊してしまいたくなる。背を舐める愉悦に喉を鳴らし、及川はすうっと目を眇めた。




 粗相の始末をしてから。それからは、いつにも増して性急だった。むしろ余裕なんてものは綺麗に削ぎ落とされて、辛うじて薄皮一枚で繋がっているという危うい状況。そんな及川を、俺だけが知っている俺だけの及川だからと笑う岩泉。くふふ、子供みたいにあどけなく笑うのだ。俺だけが知っている俺だけの岩泉の顔をして。残った薄皮の切断など容易いことだった。

 ローションを手のひらであたためることもなくぶちまけて、それでも傷をつけぬようゆるゆると解してゆく。多少おざなりであった感は否めないのだけど。岩泉の愛してやまない指でぐぷんとナカを抉れば、それを食い締めて離すまいとする。宥めながら奥をさすると、そこはすぐに及川の指のかたちを思い出して誘うのだ、もっと奥へと。そうして指の後に与えられるモノをねだるみたいにひくりと喘いだ。岩泉のナカは、指を挿れるまでは清廉であり頑なであり、悦楽とは程遠いさまを見せる。踏み荒らすことを躊躇わせる、煌めく新雪みたいに冷たくて綺麗だった。すぐに熱く蕩けて絡みつくくせに、ほら、もう指が三本入ってる。今までに幾度も幾度も及川を喰らっているくせに、ほら、今日もまた欲しいってはくはくしてる。なのに岩泉はいつまでたっても汚れない。穢れない。だから汚いだなんて冗談でも許さない、それをこの身体の持ち主が言ったとしても同じこと。けれどそんな岩泉が唯一及川のかたちだけは覚えているのだ。やわく包み込むみたいに、きつく絞め殺すみたいに、及川だけを欲しがるのだ。煽られないはずがないだろう。十分に育って先走りの透明な粘液をこぼす己のモノを、やわらかくほころぶ襞に押し当てたのは、そこからずるりと一息に指を抜いたすぐ後のことだった。




「も、むりっ!なんも…でな…いから!くるし……っ!あ、あ、まっ、て!」


「またないってば。お前が可愛いのが悪い」


「いや…!ちょ…っと…んっ、あぁぁ!まて、って!」


「いったあ!何してんの!禿げるだろ!」


 肩や背に食い込んでいた岩泉の指が汗に濡れた前髪を掴み、それをぎゅうっと力任せに引っ張る。痛みに顔をしかめながら動きを止めると、うるむ濡羽色の猫の目が及川の榛色をじいっと見つめていた。おとなしくなった及川に満足したのか、岩泉は髪から手を離し、そのまま指を頬にすべらせる。


「…………お…めでと…」


「…………」


 微かに震える指で、整わない呼吸で、幾筋も涙の跡をつけた赤い頬で、唾液に濡れた唇で。その全てで紡がれる言葉にめまいを覚える。胸が疼いた。ついでに言うと下腹も疼く。つとサイドテーブルにある置時計を見やれば、ちょうど日をまたぎ少したった時間で。腹時計なのだろうか、こうしたときの岩泉の勘は驚くほどに鋭い。今の今まで身も世もなく泣き喘いでいたというのに。


「……んだよ。おまえの、たんじょうび…だろうが…っ!んんっ!」


 きゅんとナカが収斂するのと、更にモノが奥へと呑み込まれたのはほぼ同時だった。はあ、小さく息を吐き出す。いっそ腹を突き破ってやろうか。いとしすぎて歯噛みする自分は、どこかおかしいのかもしれない。


「……ありがと。…ねえ、岩ちゃん。俺が結婚してって言ったらしてくれるんだよね?」


 『考える』と言っていたような気もするけれど、考えたところで答えは是しかないのだから、この問いは間違っていないはずだ。頬に触れる指を握り、そうして自分のそれと絡める。


「……ん」


 短い、是か非かもわからないような、小さな返答。けれど涙を刷いた目は及川を見つめたままで、視線を逸らすことも、その光が揺らぐこともなかった。


「じゃあ、アルコール抜けたらプロポーズしようかなあ。楽しみにしてて」


「……おれ、がいないと、いきていけないように…してやったんだよ。ざまあみろ!……ひぁ…っ!ちょ、ああぁっ!」


「っ……そうだよ。俺を殺したかったら岩ちゃんが俺を捨てればいいんだ。簡単だね。でもそのときは死ぬ気で逃げなよ」


「だれ…が。に、げるかよ…っ」


 なめんな、くそ、ゆっくりと呟くみたいに開いた唇は、紅く濡れて艶かしい。覗く唾液を纏って淫猥に煌めく舌は、それよりもっとずっと赤かった。絡めた指先にちゅっと口づけをしてから指をほどき、その手を背に回すよう促す。腰を掴み、ぶつかる肌が大きく音を立てるほど勢いよくモノを突き入れると、回させた手がぎりぎりと背に食い込んだ。仰け反り露になった喉仏が上下している。そこからはもう言葉にならない音が弾き出されてゆくばかりだった。


「あ、あぁぁ!…っっ!……だ、め。ふっ、うぁぁぁっ!ぬ…い、っ」


「むり。もっとイケるでしょ」


「…ぁ、あぁ!…はぁ…っ!こ、わ…ぃっ!ああ……ぁ!とぉ…っ!」


 ふたりが繋がっているそこを中心に、身体もシーツも惨状と言うにたがいない有り様。主に岩泉が、なのだけれど。汗にローションに精液、見事なほどどろどろのぐちゃぐちゃで。突き上げる度にモノからはとろりと白濁混じりの粘液がこぼれる。もう薄くて水っぽくなったそれが、まさにこぼれていた。イッている最中なのか、余韻なのか、それに被さる絶頂なのか、きっと岩泉はわかっていない。いやいやとかぶりを振って、汗と涙を皺だらけのシーツに撒き散らしながら、掠れた悲鳴を上げる。鮮烈な色。凄絶な艶。ひどく、きれいだと思った。愛おしいと、思った。




 汗でぺたりと額に貼り付く髪を撫でる。硬そうに見えて、ふわふわしたやわらかな髪。ぷつりと糸が切れたみたいに動かなくなった岩泉の猫目は閉じている。散々泣いて赤く染まった目元に口づけをひとつ。薄く開いたままの、唾液にまみれる唇にもまた口づけをひとつ。ふにゃりといとけない笑みを浮かべるこのひとは、いまどんな夢をみているのだろうか。そこに自分だけがいることを、ただ乞い願う。


 いつまでたっても、死ぬまできっと、死んだってやっぱり。おまえには敵う気なんてしないんだ。




『おはよ。寝てるだろうからメールにしとくよ。昨日お前がヤキモチやいて泣いてた件だけど。岩泉の言った「あれ」ってさ、有給のことなんだわ。6月に二人分の届け持ってきてね、「たぶんあいつはまた2日休むって駄々こねるはずだから頼むわ」って。今まで休み取れてたのは全部岩泉のおかげだよ。お前の誕生日も岩泉の誕生日も。これ俺からのプレゼントな。読んで改めて愛されてる喜びに浸れば?ほんと岩泉はできた嫁だよね。花には負けるけど。そうそう、花がベランダのミント育ちすぎてヤバいからモヒートパーティーいつする?って言ってる。岩泉と話して決めとくから詳しくはあいつに聞いてね。じゃあ、ごゆっくり。誕生日、おめでとうな』






 


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