食べるということは、生きるということ。飢えたこの身に繰り返し教え込まれるのは、愛するということ。今日もまた、甘い毒を孕むその愛に、牙を剥いて喰らいつく。





「……っ、うあっ!…もっ!やめ、ろ!」


「……ちょうど、5pだよ」


「……?ふ…うんんっ!なに、がっ!?」


 こちらの否も応もはなから聞く気のない指に、ナカの、触れてほしくないところをぐいぐい押しながら抉られると、内ももが痙攣して下腹も次第に引きつったようなぴりりとした痛みを訴え始めた。ソファにゆったりと身体を預ける及川を跨いで、向かい合うように座らされた自分は他人の目には一体どう映るのだろうか。間違っても自ら上に乗ったわけではない。なのに、柔らかく熟れたそこは、この気まぐれな指をまるでいとしいもののように咥え込んで決して離そうとはしなかった。


「俺と岩ちゃんの身長差。俺を追い越すんでしょ。好き嫌いしてたら大きくなれないよ?」


「……ひ、あぁっ!……してねえ、しっ!」


 笑む及川の指が二本、くいっとひくつくナカをひろげる。それと同時にぐちゅりとひときわ大きく響く濡れた音に耳までをも犯され、ひろげられた隙間を埋めようとそこはひとりでにきゅうきゅう指を締め付けた。そしてゆっくりと少しだけ引き抜き同じゆるやかさでまた戻る。それを何度か繰り返されると焦燥にも似た感覚が大波のように襲ってきて、無意識のうちに身体はぶるりと大きく震え、堪え性のないモノからはとろりと蜜が溢れた。そこには触れても、触れられてもいないのに。


「そう、偉いね。じゃあさ……」


「んんっっ!ふ…ぁ!まてっ!あ!ああぁっ!」


 確かに焦れてはいたのだけど、前触れなく一息に抜かれる衝撃は思いのほか大きくて。去り際の、いいところをぐりっと抉る悪戯に危うく達してしまいそうになる。そしてその後にやってくるのは、散々弄ぶようにナカを蕩かしたものがいなくなった、何故だかじわりと涙が浮かぶほどの喪失感。

 他を食べることも食べさせることも許されていないのだから、今さら好き嫌いなどできるはずがない。自分の浅ましさに腹が立って仕方がないのだけど、この身体は及川をもっと食べたいとねだるのだ、そう、いつだって。


「……そろそろ、いただきますしようか。ね、岩ちゃん」








 岩泉が及川を跨いで上にいるときには必ずさせられる理不尽な挨拶という名の辱しめ。させられると言っても別に強制されているわけではなくて、けれど挨拶なしにはこの先の行為もないという、結果として自発的にすることを強制されているには違いないのだけども。実際以前ふざけるなと拒否したところ、及川は怒るふうでも落ち込むふうでもなく、ただ気味が悪いあのよそ行きの笑顔で、昂ったままの岩泉をためらうことなく放り出したのだ。やさしく労るように服を着せられ、きゅっと抱き締めて頬に口付けられ、そして、それでおしまい。


『……はあ?意味がわかんねえ』


『岩ちゃん、挨拶は大事なことだってどの口が言ってたっけ。俺はそれに倣っただけ』


 スポーツと挨拶はその精神からかいつでも必ず一くくりになっていて、確かに部では挨拶を忘れるなと何度も説いてはいたけれど、いきなりそれを持ち出された理由は今でもさっぱりわからない。それよりも悲惨だったのはその後で、及川が何故か上機嫌な様子で帰ってからも、着せられた服の下では行き場のなくなった熱がぐるぐると渦を巻きながら岩泉を苛んでいた。

 及川などいなくても、欲を吐き出すことくらい一人でできる。半ば自棄になってモノに指を絡ませてはみたものの、どうして背を這い上がるぞくぞくとした快感も腹から突き上げる痛みすら感じるほどの熱さも、何も得ることはできなかった。ただ吐き出して楽になりたかっただけなのに、楽どころか余計に苦しさが増すばかりで。自分はいつからこんなにおかしくなってしまったのだろうか。きっと全部、何もかも及川が悪いに決まっている。結局その後は冷たいシャワーを浴びて、何度も舌打ちをしながら眠れない夜を過ごすことしかできなかった。








「……この、クソ、ボケ、カス…………………早く…食わせろ」


「それ、何かの呪文?本当に岩ちゃんは可愛いね。……ん」


 目を眇め、するりと腰を一撫でした及川は、いつも余計なことしか言わない、けれど腹が立つほどにかたちが良くて、驚くほどにやわらかな唇を少しだけ引き上げくすりと笑う。そして楽しげに岩泉を追い込む赤い舌を、れろ、どうぞと言わんばかりに差し出した。故意に唾液を纏わせたそれはてらてらとしていて、濡れる赤を目にした瞬間思わずひくりと喉が引きつる。そのうえ今は触れてもいないナカがきゅうと締まり、モノからはこぷりと蜜がこぼれて及川の腹を汚した。


「……クソ、死ね、ボケ、ハゲ………………いただき……ま、す。…………ハゲ、クソ!」


 毎回ハゲは二回も言わなくていいよと言われるのだが、そんなもの構っている余裕などない。あまいあまい蜜の滴る果実のような、毒入りだとわかっている舌を唇で食み、そろりと自分のそれを絡めた。ちゅる、音を立てて唾液を舐めとり、また食んで。そして震える脚にぐっと力を入れて膝立ちになると、ひくつく入り口を火傷しそうなほど熱い及川のモノに擦り付ける。くちゅくちゅと先走りでぬめるそこが、及川もまた喰らいつく瞬間を窺っているのだということを如実に示していた。

 これが、及川の決めた『いただきます』のルール。馬鹿が決めたことなので、甚だ馬鹿馬鹿しいのだけれど、それに従う自分も大概の馬鹿だという自覚はある。


「……ん、お残しはいけないよ」


「あ、あっ!……っ!ああぁ!う…んあぁっ!」


 唇がちゅっと軽い音を立てて離れ、それが合図だったかのように、及川の手は岩泉の腰を掴みそれを自身へぐっと引き下ろした。ゆっくりと、けれど止まることなく捩じ込まれるモノを、岩泉のそこは健気に呑み込んでいく。この体勢は熱くて狭い粘膜が及川のかたちに押しひろげられるさまをありありと知れるため、煽られる羞恥は半端なものではなかった。なのに、たまらなく気持ちがよくて、泣けるほどに嬉しい。涙を刷いた目で及川を見下ろすと、普段はうまく隠している獰猛な光を宿した瞳とぶつかる。


「……岩ちゃん、その可愛い顔は誰にも見せるなよ。俺、相手の男を殺したくなっちゃうからさ。そしてね……岩ちゃんは閉じ込めて、一生、出してあげない」


「……ふっ、あ、あっ!イッ!や…あああぁ……っ!!」


 何故相手が男に限定されているのか、そもそも他の人間に身体をひらくと思っているのか、突っ込んで殴りつけたい気持ちは山とあったけれど、ひとつも言葉にならなかった。ただ根元まで及川を呑み込んだだけのそこは、咀嚼するようにぎゅうと締め付けながら蠢く。ただ、それだけのことなのに。及川のこの目はいけない、何もかもが溢れて吹き出すのを堪えられなくなる。

 頭のなかは鮮やかですらある白に染め上げられ、つま先をぐうっと丸めて身体を強張らせた。しがみついた背にぎりぎりと爪を食い込ませながら、たまるいとまなどないほどに搾り取られているはずの、けれど濃い欲をなお凝縮したような、どろりとした熱い粘液を勢いよく溢れさせる。


「なに、岩ちゃん閉じ込められたかったの?いいよ、いつでも」


「……ふ、うぁ…ぁ」


 腹を汚す白濁を長い指で掬った及川はとろりとあまい笑みを浮かべながら、糸を引くそれを岩泉の唇に押し当てた。褒美でも与えるかのような不遜な態度に腹は立つけれど、何よりも大切で愛しいこの指が己の精液で汚れている愉悦に肌が粟立つ。舌を出して舐めたその指はまるで蜂蜜みたいにあまくて、最早味覚まで支配されているのかと愕然とした。やはり、何もかもこの男が悪いのだ。まなじりにたまった涙をぽろりとこぼしながら、それでも強く挑むような猫目で及川を見つめ、こんなものでまだ足りるものかと指に傷をつけぬようゆるく歯を立てた。

 どんなときだろうが、どうなっていようが、この指も手のひらも自分が守るのだと決めている。そんな岩泉の献身に目を細めた及川は、下から緩く突き上げながら、同じように指で熱い咥内を犯した。もう、毒は全身にまわっている。喰われているのは果たしてどちらか。


「いただきますは大事だけどさ、ごちそうさまはね……」


 言わせないよ。
 言わねえよ。






 食べるということは。

 愛するということ。






及川×岩泉|Main


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