眠れる王子の恋事情
こくり、こくり。目の前で舟を漕いでいる国見くんは、差し迫るピンチにまだ気がついていない。高校入学から早二ヶ月。地区の関係から青城には北山第一中の生徒の多くが進学すると聞いていたため、少し遠い学区から進学したわたしは孤独にならないかと怯えていた。しかし、さすがは文武両道の名門私立。遠い地域から来ている生徒が思ったより多く、人知れず安心したのを今でも覚えている。
同じクラスになった子たちの顔と名前は数週間もすれば覚えた。もちろん、目の前の彼も。背が高くて端正な顔をしているけれど、いつも眠たそうな目をしていて気だるげな雰囲気を醸している。新学期早々に行われた自己紹介では、どこか冷めた人なのだという印象を覚えた。しかし、噂によれば運動部に入っていると聞くから、つくづく人とは見た目からだけではよく分からないものだなと思う。
そんな彼と初めて喋ったのは、この席になってから初めて行われた理科の移動教室でのことだった。
教科書を忘れてしまった私は、隣に座っていた男子に「教科書を見せていただけますか」と敬語を
スッと教科書を横にずらして見せてくれたのが国見くんだったのだ。
「ありがとう」
「うん」
話は彼に迫るピンチに戻るが、いま授業を行なっている数学の先生は少々タチが悪い。居眠りや私語をしている生徒にはっきりと注意はしないけれど、それを見越してわざと問題をあてて、後からネチネチと嫌味を言ってくるタイプだ。だから、この先生の授業はなるべく居眠りをしないようにというのがクラスの中で暗黙のルールとなっていた。
しかし、それでも月曜の一限という、気分の乗らない時間帯。
さて、どうしたものか。国見くんの前の子まで順番が来たが、彼は身体を前に傾けたまま頭を沈めている。
起こしてあげたいけれど声はかけられない。かといって、身を乗り出さなければ肩を叩ける距離感でもない。なぜか今日の彼は前寄りに机が移動しているのだ。変な挙動をして先生に目をつけられたくないし、隙をねらって肩を叩いてみようか。
そこまで考えていると彼の前の子が答え終ってしまい、次はついに彼の番というところまで来てしまった
ええい時間がない! と、気づいた時には考えるよりも先に足が出ていた。一瞬の隙を狙ってガツン、と机の下から前の椅子を蹴り上げた私は思ったよりも衝撃が大きくなってしまったそれに、しまった、と息を呑んだ。突然の衝撃に驚いたのか、びくりと身体をはね上がらせて起きた国見くんは、ガタリと小さくも静かな教室には十分響く音を立ててしまった。
突然響いた音に、前を向いて解説をしていた先生が訝しげに振り返った。ハラハラドキドキと高鳴る胸を必死に抑え込むように下を向いた。再び解説を始めた先生の声が聞こえてくると、小さく息を吐いた。ちらり、と前を向くと国見くんは
国見くんは多分、頭がいいんだと思う。