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「おにはーそと!」

 玄関の扉を開けると、陽太郎と小南から豆を当てられたおれとなまえ。おれはサイドエフェクトでこの光景は視えていたから、何も驚きはしなかったけれど、なまえは違ったようだ。まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。それをいいことに、陽太郎も小南も、なまえに豆を当てまくっている。おれはその光景がひどく滑稽で思わず笑ってしまった。

「えっ……えっ……?なに……?どういうことなの……?わたしなにかした……?」
「ちがう、ちがうよなまえ。今日はほら、節分だから」
「せつぶん……?ああ!恵方巻きの日!」

 漸く合点が入ったという顔をしたなまえが足元を見回すと、そこには先程投げられた無数の豆が散乱していた。それを投げた張本人たちが、抜き足差し足をしながらリビングへと戻っていく姿を見つけたなまえは、靴を適当に脱ぎ捨てて、まるで五歳児のようにバタバタとふたりの元へと駆けて行った。

「こーらー!!わたしのどこが鬼だっていうわけー?!?!」
「やばい、どうしよう陽太郎!なまえが怒ってる!!」
「小南がやろうって言ったんだぞ」

 小南の腹になまえの腕が巻きつく。小南は恐る恐る後ろを振り返ると、笑顔を浮かべたなまえがいた。

「ほーんと、いたずら好きなんだから」
「なまえ、怒ってないの?」
「怒ってるよ。うん、怒ってる」
「ええ〜〜ごめん!許して!」

 笑顔から一転、なまえが怒ったような表情を見せると、途端に小南はしおらしくなった。陽太郎もなまえが本当に怒っていると思っているのか、様子を伺うような顔をしていて、珍しいこともあるものだなと思った。そんな様子に耐えきれなくて、おれは横から口を出した。

「なまえ、揶揄うのもその辺にしてあげたら?」
「えっ!怒ってないの?!」
「えへへ、最初から怒ってないよー!びっくりはしたけどね」
「なまえは演技が上手いな」

 なぜか得意げに陽太郎が胸を張る。その様子を見た小南がじとりと陽太郎を見つめ、またふたりで走り回っている。元気だなあと思いながらその光景を眺めていると、隣からも「元気でいいなあ」という声が聞こえた。考えていたことは同じだったらしい。
 その後、恵方巻きを持った京介が玉狛に到着し、レイジさんの作った豚汁と一緒に節分の日の夜を過ごした。玄関に残った豆が原因で、翌日の朝に小南が滑って転ぶことはすこし内緒にしておこう。

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