午睡、赤アネモネ

 今日はあたたかくて晴れた洗濯物日和だ。そのため、朝から玉狛のベットシーツ類を全てかき集め、レイジさんと一緒に洗濯し続けた。そして、洗濯し終わったシーツ類から順に外に干していった。時折、陽太郎と雷神丸が周りを駆け回って砂が少し待ったけれど、それほど汚れなかったので許容範囲内だ。ふたりは後から来てその光景を見たレイジさんに怒られていた。
 春の陽気が心地いい。肌を撫でる風が木々が芽吹く陽気を教えてくれる。鉢に植えてあるアネモネの花も、もうすぐ咲く頃かなあと楽しみになった。もうそろそろ毛布も片付けなきゃいけなくなるかなあと思いながら、私は全員分のシーツ類を干し終えた。時刻は午前11時。もうすぐ昼時である。
 それから玉狛支部の各部屋に掃除機をかけ、窓拭きは陽太郎に頼んだ。陽太郎の手が届かないところは私が代わりに拭いた。そうしているうちに時計は一周し、待ちに待った昼食の時間となった。

「レイジ!きょうはなんだ?」
「炒飯だ。残さず食べろよ」
「わーレイジさんの炒飯おいしいよねー!」

 今朝から林藤支部長は本部に行っているので、昼食はレイジさん、陽太郎、私、雷神丸の四人だけだ。しかし今夜は、桐枝やとりまる、三雲くんたちもここに泊まるらしく、稀に見る大所帯になるなあと思った。人数が多い分、ご飯を作るのも大変になるなあと思ったところで、今晩の炊事当番は私であることを思い出した。まずい、なにも考えてなかったし、買い出しにすら行ってない。なにを作ろう。やっぱり大人数だから一気に作れるものがいいよなあなどと考えていると、レイジさんが不思議そうに私に問うた。

「どうした?みょうじ。難しそうな顔をしているが」
「うーん…今日の夜なに作ろうかと思って」
「今晩は人数が多いからな。鍋でいいんじゃないか?」
「んー…でも今日はあったかいからなあ」

 それに鍋だと迅と一緒になっちゃうからやだと言うと、迅がそれを聞いたら悲しむなとレイジさんに言われた。だって鍋奉行である迅の座を一度でも奪うのは、なんだか嫌だ。それに今日は気候があたたかいから、なるべく鍋は避けたい。そう考えながら食事を終え、皿洗いをし、冷蔵庫を覗くと、茄子が大量にあった。思い起こせばつい先日、林藤支部長が大量に茄子を持ち帰ってきた。どうしたのかと訊くと、街で困っていたおばあちゃんを助けたら沢山もらったのだと言う。その日の夕食には茄子を使ったものがいくつか並んだが、それでも消費しきれなかった。その残りがこれだ。私は今夜は麻婆茄子を作ろうと決めた。
 流石に冷蔵庫にある茄子だけでは全員分を賄えなさそうだったので、洗濯物を取り入れた後に買い物へ行くことにした。私は外に出て急いで干していたものを屋内へと運んだ。そしてレイジさんと陽太郎にも畳むのを手伝ってもらい、全てのシーツや衣類を畳んだ。洗濯物を手に取る度にふわりとお日さまの香りがして、リラックスした。時々、陽太郎も洗濯物の山に飛び乗って、いいにおいだなと言ってごろごろしていた。陽太郎はそのままうとうとし始めたので、レイジさんが陽太郎をソファーに運び、畳んだばかりのブランケットを陽太郎に被せた。陽太郎はつい数分前まで嗅いでいた匂いに包まれたことに安心したのか、すぐに眠りについた。私やレイジさんは全ての洗濯物を畳んだ後、各収納棚にしまい、各部屋に行ってシーツを敷いた。
 私がシーツ敷きに手こずっている間にレイジさんはさっさと担当分を敷き終わったらしく、私の様子を見に来た。手伝おうか?と訊かれたが、レイジさんが本部に行く時間が迫っていたので、丁重にお断りした。それに残りがあと二部屋分だけだったというのもある。
 やっと全てのシーツを敷き終えて、私はベッドにごろりと寝転んだ。そのまま意識が遠のいて、私は眠ってしまった。

+++


「なまえ、起きろ。なまえ」
「んん……ゆう、いち?」
「うん、そう、おれだよ。なまえ今日炊事当番だろ?」
「すい、じ……炊事?……まって買い物!!」

 目を覚ますとそこには迅がいて、ベッドに腰掛けながら私の頭を撫でていた。そうだ、ベッドにダイブしたら案外気持ちよくてそのまま寝てしまったんだった。ぼーっとしながら迅と会話をしている最中、だんだんと意識が鮮明になってきて、私は今日夜ご飯を作らなきゃいけないことを思い出した。どうしよう、みんなに迷惑かけちゃうと明後日ベッドから起きあがろうとすると、迅が私の腰に腕を回した。そのまま私の肩に顎を乗せて話し始める。

「買い物はもう行ってきたから安心して」
「えっ行ってきてくれたの?」
「うん。昼になまえがここで寝落ちして、夕方ごろ目を覚ましたときに、買い物に行ってないって大騒ぎするのがみえたから」
「ほんとありがとう……疲れてるのに……」
「いーえ、どういたしまして」

 なまえもおつかれさまと言って巻いている腕を強める。そのまま何も言わずにふうと迅は息を吐いた。私はこの時間が好きだ。なにも会話をせずとも思いが通じ合っているこの時間が、私にとって一番心安らぐ時間なのだと最近気づいた。それは迅にとっても同じらしい。迅の手に私の手を重ねると、迅は私の手を包み込むように手の位置を変えた。私はそれが嬉しくて、笑みが溢れた。

「珍しいね、迅が支部でこんなことするの」
「だって今人がいないからな」
「陽太郎は?」
「下でまだ寝てるよ」

 そのあとも他愛のない話をした。その途中、迅が「あ、陽太郎がもうそろそろ起きてこっちに来るな」と言うので、手を解いてふたり並んで階段に向かった。すると迅の予測通り陽太郎と鉢合わせて、ふたりで顔を合わせて笑った。
 三人で一階に行って、迅が買ってきた食材をテーブルに並べる。そして今必要な食材と不必要な食材を分けて仕舞い、エプロンを着て料理を始めた。今日は私の担当だけど、迅も一緒にやってくれるらしい。それを知って口角が上がるのを感じながら、私が今宵の食卓を彩るために精を出すのを、迅もまた微笑みながらみつめていた。
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