とある双忍の話



「待たせたみたいだな」
「おう、……ってお前、三郎か?」
「友人の顔を忘れたのか?酷いなぁ」

三郎であろう彼は不服そうにこちらを睨む。しかし、分からないのも無理はないだろう。三郎の顔は忍術学園にいた頃のそれと全く違っていた。

「そういえば雷蔵はどうしたんだ?」

適当な茶屋へ入り、のんびりと茶をすすったところで、何の気なしに、ここに居ておかしくない、もう一人の級友について尋ねる。学園で生活していた頃、三郎は級友である不破雷蔵の顔を借りていた。そして、卒業後も双忍として活躍していると聞く。その彼がいない事に疑問を感じていたのだと、口に出した事で自分自身に納得する。
俺の問い掛けに三郎は少しの間黙りみ、小さく唸ってから口を開いた。

「……死んだよ」
「はぁ…っ?」

聞き逃してしまいそうなほど小さな声で発された内容に、思わず立ち上がり声をあげる。すると三郎は吹き出し、周りの奴ら、驚いているぞ。と、にやにや笑い俺を見上げる。周りを見渡すと確かに何人かの客が不思議そうにこちらを見ていた。慌てて腰をおろし、未だににやける三郎を睨みながら話の続きを促す。

「本当……だよな?」
「ああ。戦場でな、私を庇ったんだ」

「しばらくは雷蔵の顔を使っていたんだ。けど、顔を見る度に辛くなってしまってな――」

唇を噛み、切なそうにまゆを寄せる。

「あの顔は大切にしまっているよ。」

三郎は指で自身の輪郭を優しくなぞり、そっと目をつむった。

***

店を出て、街の外れへと足を運ぶ。日は陰りはじめ、微かに虫の声を感じられる静かな道だった。お互い顔を合わせることなく、ただただ歩いていた時、ぽつりと三郎が呟いた。

「なんだか湿気てしまったな」
「悪い、俺が変なこと聞いたから」
「なぁに、気にしていないさ」

どちらともなく立ち止まり、ぽつぽつと話し出す。

「……お開きにするか」
「そうだね、今日は会えて嬉しかったよ」

呟く三郎の、その口調がここにいない彼そのもので。

「雷蔵?」

思わず彼の名を口にする俺に、三郎は気まずそうにうつむく。
そして、三郎は俺の方にしっかりと体を向け、にこりと寂しそうに微笑んだ。それは、三郎が唯一真似しようとしなかった『不破雷蔵』の笑顔だった。