うたた寝する金剛さんとミズキくん




真っ暗な部屋にいた。何も見えないはずの世界で、金剛の姿だけがぼんやりと見えていた。
「ごめんね、ミズキ」
眉を下げて困ったように笑い、彼は自分の傍から離れていく。
追いかけようとしても体は動かず、引き留めようと叫ぼうにも声が出ず。彼の姿がぐんぐんと闇に飲まれていく。焦りだけがどんどん溜まっていく。


「みずき……」

聞きなれた自分の名前を呼ぶ声。先程までの光景は消え去り、電球の白い光が瞼を突き抜け刺さってくる。

「ンだよ、こんごー……」

眩しさに顔をしかめながら声の主へ言葉を投げるが、返事は何も無かった。
眩しさに目を慣れさせながらゆっくりと目を開く。そこは見慣れた、金剛の部屋だった。

「おい、金剛?」

再び彼の名前を呼ぶ。
ゆったりとした2人がけのソファー。自分とは反対側の肘掛にもたれるように体を丸めた金剛の姿。そっと顔を覗き込むと、静かに寝息を立てていた。

ただの寝言かよ。

楽しい夢を見ているのか、微笑みを浮かべている。自分は寝ているくせにオレの事は起こすのかと理不尽な怒りもあった。しかし結果的に最悪な夢から目覚めさせてくれた事、夢の中でも彼が自分と共に居る事に対するむず痒さが勝り、ミズキはぼすりと金剛の太ももあたりへと飛び込む。

「みずき、……と」
「ずっと、一緒だ……」

頭上から降る優しい声色に、心臓がばくばくとうるさくなる。

「クッソ、恥ずかしいんだよバーカ……!」

溜まっていく熱を吐き出すように、真っ赤な顔でミズキは吠えた。

***

ごそごそとなにかが擦れる音にミズキは再び目を覚ます。ゆるりと首を回し周囲を見渡す。枕にしていたはずの金剛がソファーの少し先に立っていた。

「あぁ、起きた?ちょうど良かった」
「食事、今から用意するけどなにかリクエストはある?」

少し寝すぎたとかなんだとか。困ったような顔で笑いながら金剛はキッチンへ向かう。

「カレー。肉いっぱいいれたやつ」
「……うぅん、今からだと時間が掛かりすぎるな。カレーはまた今度でいい?」
「はァ?聞いてきたクセにずりーぞ!」

金剛の勝手な言葉に反論するが、金剛の中ではもうメニューは決まったようで。冷蔵庫から食材を出し、調理器具を出し、着々と準備を進めていた。聞いた意味あんのかよ。ぷくりと頬を膨らませて金剛の方を見ていると、ぱちりと視線がぶつかる。

「はは、ごめんってミズキ」

夢で聞いたそれに似たセリフ。しかし金剛の表情は夢とは違い明るいものだった。
それになにより。『また今度』。先程金剛の口から零れた言葉を脳内で繰り返す。金剛と自分の関係が明日以降も続くと思わせる、思わせてくれる言葉。じわりと頬と心臓の当たりが暖かくなる気がした。

「明日はぜってーカレーだからな!」
「じゃあ食事の後から用意しなきゃなぁ」

とんとんと包丁がまな板に当たる音を聞きながら、ミズキは頬を緩ませソファーに体を預けるのだった。