ビリジアンと有名な画家
陽の光を反射させる白い壁、真夏の空のように鮮やかな青い屋根。一見何処にでもありそうなこの屋敷は、画家名字名前のアトリエである。 独特な世界を描き出す名字名前は世界中で有名な画家であり、ビリジアンの最も尊敬する人物の一人であった。そんな所に入ることができるなんて。不謹慎にも予告状を出したジョーカーに少し感謝する。ビリジアンは胸の高鳴りを抑えつつ、チャイムを鳴らす。
しばらくしてがちゃりとドアノブが回る。そして現れたのは一人の女性。歳は自分と同じか少し上だろう。長い前髪の隙間から覗く目は暗く、こちらを探るようなもので、決して歓迎はされていないようだった。
「初めまして、探偵のビリジアンです」
「あぁ……初めまして。別に来なくてよかったのに」
「……名字先生はどちらに?」
彼女はビリジアンの質問には答えず、すたすたと屋敷の中へ歩いていく。不躾な態度に多少の怒りを抱きながら慌てて追いかける。そして、何度か声をかけるが彼女は固く口を閉ざしていた。
「名字名前の作品、どう思う」
ビリジアンが話を聞き出すことを諦めたとき、彼女の声が静かな廊下に響く。彼女は突然話を振られたじろぐビリジアンをじっと見つめ、もう一度口を開いた。
「名字名前の作る作品は、君の目にはどう映っているんだ…?」
「……、名字先生の作品はどれも美しいと思います。荒々しい筆遣いなのに全体を見つめると大人しくまるで崩壊を恐れているみたいだ。ただ……」
少し、怖い。自分でも聞き取れないくらい小さくなったその一言はきっと彼女の耳には届いていないだろう。彼女はじっとこちらを見つめ、小さく息をはいた。
「君なら大丈夫かもしれない」
「はぁ……?」
彼女はそれだけ呟くと、再び屋敷の奥へ足をすすめる。いったいなんなんだ。疑問ばかりが積もっていくのを感じながら、ビリジアンは前を進み続ける名も知らぬ彼女の背中をじっと眺めていた。