所有物
「……ピアス、開けてほしいの」
恐る恐る、彼女はぼくにそう頼んできた。あんまり突然だったものだから、つい返事もせず彼女を無言で見つめ返してしまう。
「いきなりごめんなさい。ずっと怖くて開けてなかったんだけど……日和くんに開けてほしくて」
「ぼくに? ……お医者さんに行った方が、きちんとしてくれると思うけどね?」
そっと彼女の横髪を耳にかけ、傷のない柔らかな耳たぶに触れた。彼女は少し頬を赤くして視線を逸らす。
「うん、いいの。……日和くんが嫌なら、無理にとは言わないけど……もし良ければ、開けてほしいな」
「……ふぅん。なら、ぼくが開けてあげるね!」
親指の腹で、優しく耳たぶを撫でる。何か心境の変化でもあったのだろうか。何にせよ、彼女の体に傷を残していいだなんて役得だ。
早速その日のうちに必要なものを揃えて彼女をぼくの家に上がらせた。大きめのソファの端にちょこんと座った彼女は、しっかりと氷袋を耳に当てながら少し所在なさげにしている。わざと距離を積めるように隣に腰掛けると、細い肩がびくりと揺れた。
「どう? 感覚、なくなった?」
「あ……うん、多分」
「しっかり冷やしておかないと痛いからね」
冷たくなった耳たぶに触れると、彼女はふいとぼくから目を逸らす。彼女の瞳は、中々どうしてぼくを正面から見つめてはくれない。
「……うん、じゃあ消毒するね」
消毒液を滲ませたコットンで耳を入念に拭いて、いよいよピアッサーを彼女の耳に当てた。長いまつ毛が少し震えている。くすりと微笑んで空いた手で彼女の頭を撫でると、彼女は不安そうにぼくを見上げた。
「日和くん、や、やっぱり」
躊躇う唇をキスで塞いで、彼女が驚いている隙に思いきってバチンと穴を開けた。
「んっ、……」
「……ふふ、痛かった?」
唇を離し、ピアッサーを下ろして彼女の髪を撫でる。彼女は何とも複雑そうな表情で、またぼくから視線を逸らした。
「びっくりしすぎて、わかんなかった……」
「うんうん、なら良かったね!」
「……左も、開けてほしい、んだけど」
開けた穴に消毒をしてやると、彼女がそろりとぼくの服の裾を摘んだ。
「もちろん。……もし塞がっちゃっても、ぼく以外に頼んじゃダメだからね」
彼女の頬を優しく撫で、視線を合わせる。喩えるなら、真っ白なキャンバス。誰にも彩られたことのない、純白の無垢なキャンバスだ。ぼくだけが触れられる――ぼくだけが彩ることのできる、愛おしい白色。
「ふふ、いい日和っ」
ピアスの穴が塞がっても、痕はずっと残る。ずっとずっと、彼女の体にぼくが残る。
明日にでも彼女にピアスを買ってプレゼントしよう。そうすれば彼女はきっと、鏡を見るたび自分が誰のものなのか認識するだろうから。
恐る恐る、彼女はぼくにそう頼んできた。あんまり突然だったものだから、つい返事もせず彼女を無言で見つめ返してしまう。
「いきなりごめんなさい。ずっと怖くて開けてなかったんだけど……日和くんに開けてほしくて」
「ぼくに? ……お医者さんに行った方が、きちんとしてくれると思うけどね?」
そっと彼女の横髪を耳にかけ、傷のない柔らかな耳たぶに触れた。彼女は少し頬を赤くして視線を逸らす。
「うん、いいの。……日和くんが嫌なら、無理にとは言わないけど……もし良ければ、開けてほしいな」
「……ふぅん。なら、ぼくが開けてあげるね!」
親指の腹で、優しく耳たぶを撫でる。何か心境の変化でもあったのだろうか。何にせよ、彼女の体に傷を残していいだなんて役得だ。
早速その日のうちに必要なものを揃えて彼女をぼくの家に上がらせた。大きめのソファの端にちょこんと座った彼女は、しっかりと氷袋を耳に当てながら少し所在なさげにしている。わざと距離を積めるように隣に腰掛けると、細い肩がびくりと揺れた。
「どう? 感覚、なくなった?」
「あ……うん、多分」
「しっかり冷やしておかないと痛いからね」
冷たくなった耳たぶに触れると、彼女はふいとぼくから目を逸らす。彼女の瞳は、中々どうしてぼくを正面から見つめてはくれない。
「……うん、じゃあ消毒するね」
消毒液を滲ませたコットンで耳を入念に拭いて、いよいよピアッサーを彼女の耳に当てた。長いまつ毛が少し震えている。くすりと微笑んで空いた手で彼女の頭を撫でると、彼女は不安そうにぼくを見上げた。
「日和くん、や、やっぱり」
躊躇う唇をキスで塞いで、彼女が驚いている隙に思いきってバチンと穴を開けた。
「んっ、……」
「……ふふ、痛かった?」
唇を離し、ピアッサーを下ろして彼女の髪を撫でる。彼女は何とも複雑そうな表情で、またぼくから視線を逸らした。
「びっくりしすぎて、わかんなかった……」
「うんうん、なら良かったね!」
「……左も、開けてほしい、んだけど」
開けた穴に消毒をしてやると、彼女がそろりとぼくの服の裾を摘んだ。
「もちろん。……もし塞がっちゃっても、ぼく以外に頼んじゃダメだからね」
彼女の頬を優しく撫で、視線を合わせる。喩えるなら、真っ白なキャンバス。誰にも彩られたことのない、純白の無垢なキャンバスだ。ぼくだけが触れられる――ぼくだけが彩ることのできる、愛おしい白色。
「ふふ、いい日和っ」
ピアスの穴が塞がっても、痕はずっと残る。ずっとずっと、彼女の体にぼくが残る。
明日にでも彼女にピアスを買ってプレゼントしよう。そうすれば彼女はきっと、鏡を見るたび自分が誰のものなのか認識するだろうから。