もしもの話
「もしも、ぼくが吸血鬼だったらどうする?」
何でもない日の昼下がり、彼は突然そんなことを言いだした。彼は、ソファに座る私の膝のうえに頭を預けたまま、珍しく真面目な顔をしている。
「……別に、どうもしないと思うよ?」
「じゃあ殺人鬼だったら?」
「別に……どうもしないかなぁ」
「うーん、じゃあ……悪魔だったら? きみを堕落させて、殺しちゃうような悪魔だったら、どうするの?」
彼は不意に手を伸ばし、私の髪の先を指に絡ませる。うーん、と唇を尖らせてから、膝の上にあるふわふわの頭を優しく撫でてみた。
「どうもしないよ。吸血鬼でも殺人鬼でも悪魔でも、日和くんのことは好きになっちゃうし……日和くんになら、殺されてもいいかなぁ」
私がのんびりそう答えると、日和くんはきょとんとしたあと、少し嬉しそうに笑った。髪で遊んでいた手が、そのまま私の首に回される。そのまま体をかがめて顔を近づけると、噛み付くようなキスをされた。
「うんうん、当然だよね。きみはぼくのものだからね! でもぼくもきみのものだから、お互い死んじゃうまで一緒にいようね」
幸せそうに笑ったその顔は、さっき並べ立てたものとは対義語みたいにきらきら眩しくて、まるで太陽みたいだ。
そうすると私は、眩い太陽に体を焦がされてゆっくり死んでいくのだろう。これ以上幸福なことなんてあるだろうか。