やさしいところ
「おねーさんは、なんで燐音くんみたいなちゃらんぽらんと付き合ってるんすか?」
「主はん、あのボンクラになんか弱みでも握られとんのか?」
「HiMERUには関係ありませんが、あの男に特定の交際相手がいて、しかも貴女のようなまともな人間だというのは意外ですね」
Crazy:Bの皆さんには、大体いつもこんなふうなことを言われる。もちろん燐音くんと私を知っている人はほとんど皆こんなことを言ってくるのだけれど、そのたびなんだか不思議な気持ちになる。
「ねぇねぇ燐音くん」
ベッドの縁に腰掛けて煙草を吸っている背中に、ふと声をかけてみる。彼は煙草を私からふいと離して、にやりと楽しそうな笑みを浮かべた。
「ン、どうしたなまえちゃん? もう一回ヤりてぇの?」
「ううん。あのね、燐音くんってさ、すっごく優しいよね?」
「ハァ? あたりめぇだろ、燐音くんよりやさし〜人間なんか早々いねぇぜ!」
冗談めかして、彼は笑う。でも実際、燐音くんほど優しいひとってあまり見たことがなかったりする。
キスも沢山してくれるし、体調が悪いときは甲斐甲斐しく看病してくれるし、セックスのときなんか私に合わせてゆっくりゆっくりしてくれるし。
そう、私は出会ってから、燐音くんに乱暴にされたことなんか一度だってないのだ。
「私は燐音くんがすっごく優しいって思うから、他の人にDVされてないかとか聞かれると、えっなんで、って思うんだよねぇ」
「きゃはは! ンなこと聞かれてんのかよ! 酷いねェ、俺っちはこんなに大事にしてやってんのに」
燐音くんはそう言いながら、まだ長い煙草の火を消して私に向き直った。つり目気味の瞳は、心底愛おしいと言わんばかりに甘い視線を私に向けている。私を撫でる手つきだって、雑ではあるけど温かいものだ。
「燐音くんは……普段どんなふうに他の人と接してるかわからないけど、でも……案外、私のこと大好きだよね」
なんちゃって、と照れながらそう言ってみると、彼は満足そうに笑いながら私の隣に寝そべった。力任せに身体を抱き寄せられて、ほんの少し息が苦しくなる。でもそれ以上に心が満たされていくのを感じた。
「今更気付いたンかよ、遅ぇなァ。俺には人生で初めてなんだよ、実の弟以外でこんなに愛しいって思えるのはな。だから大事にするし、絶対手放したりしねぇよ」
「……ふふ、嬉しい」
彼の広い背中に手を回して、首筋に擦り寄る。きっとこれからは、どうして燐音くんなの、と聞かれるたびに少し嬉しくなるんだろう。だって、燐音くんのこんな表情を知っているのは私だけってことなんだから。
……そう思うと、不思議がられるのだって案外悪くないのかもしれない。