※夢主が軽い男性恐怖症という設定
※一瞬友也くんが出てきます





舞台に立つ日々樹さんは、男性だなんて思えないほど美しくて、綺麗で、神秘的で……輝いていた。ライトに照らされた髪の一本一本がきらきらと宝石のように輝いて、紫色の瞳は、見えるはずなどないのに私の全てを見透かしているように見えた。

「……日々樹さん、」

舞台が終わってすぐ、控え室に向かった。3回ノックをして部屋に入ると、まだドレス姿の日々樹さんが驚いたようにこちらを見ていた。舞台の上では見えなかったけれど、汗だくだ。髪がうなじにはりついているのを見ると、あぁこの人だって生きているんだった、と当たり前のことを思い出す。

「こんにちは、なまえさん。どうしました、そんなに息を荒らげて」
「……わ、私……ごめんなさい、いきなりこんなところまで来てしまって…………日々樹さんがあんまり綺麗だったから、つい、その……ひと目会いたくて」

日々樹さんは、にこりと綺麗に笑って私に近付いた。私を控え室の中に入らせ、ドアを鍵まで閉めて、日々樹さんは私の髪に触れてきた。ドアに背をつけた状態で目の前に迫られ、逃げ場がなくなってしまう。改めて接近すると、日々樹さんのほうが私よりずっと背が高い。確か180くらいあるんだっけ。

「ひと目会って、それだけですか?」
「会って、それから……あなたに触れたい、って思って……でも私、んっ」

私が何か言い訳をする前に、日々樹さんが私の口をキスで塞いでしまった。ドアに押さえつけられたまま、柔らかい唇が優しく私の唇を食む。日々樹さんの手や首筋はじっとり汗ばんでいて、絡めた舌は火傷しそうなくらい熱い。

薄目で目の前の日々樹さんはどう見たって綺麗なお姉さんなのに、本当は違う。違うとわかっているのに、なぜだか他の男性に対する恐怖感を、彼には感じない。大きな手が私の胸元に触れても、背筋が粟立つことなんかないのだ。

「あ……っ、だめ、日々樹さん」
「……こんなに身体が熱い時に、貴女がそんな愛らしい目を私に向けるからいけないのですよ。本当に私の女装姿がお好きなようですね」
「ん、うん、好き、大好き……」

だって目の前にいるのは、世界で一番美しい女性だから。……だから、怖くない。白く滑らかな肌には目が眩む。薔薇の良い香りがする長い髪には触れたくなる。柔らかな唇に、優しく頭を引っ掻き回されてしまいたい。

「…………名前で呼んでくださらないくせに」

わざとらしく、低く地を這うような声で彼は私に囁いた。一瞬怯んでしまった私に、先程とは全く違う、激しく噛み付くようなキスをしてくる。

「……っやだ、日々樹さ、」
「怖いですか? 今更、私のことが?」

まつ毛が触れてしまいそうな距離で、彼は私の瞳をじっと覗き込む。私の手をドアに押さえつける大きな手に、密着した下半身に伝わる私とはほんの少し違う熱に、じわりと涙が滲んだ。

「……ごめんなさい、」
「…………いえ、良いんですよ。私こそすみません、意地の悪いことをしてしまって」
「日々樹さん、私ほんとうにあなたが好き、大好きなの、でも……」
「わかっていますよ、大丈夫ですから。ほら、目を瞑ってください」

少し濡れた瞼に優しくキスが落とされる。目を閉じると、日々樹さんの香りや息遣いがしっかり伝わってくる。いつもの薔薇の香りと、それからほんの少し、日々樹さんの汗の匂いも混じっている。いつもより浅い呼吸が耳を掠めると、ぞわりと腰が抜けてしまいそうになる。

「後ろ、向いていてくださいね」

くるりと体の向きを変えられ、正面からドアに押さえつけられた。背中側から、しゅるしゅると布を解く音が聞こえる。かと思えば日々樹さんの手がするりと私のスカートを捲りあげ、下着を膝まで下ろした。

「ひ、日々樹さんっ、待って、こんなところで……」
「平気ですよ、誰も来ません。……貴女が声を上げさえしなければ、ですが」

ずぷ、と、少しの異物感とともに日々樹さんの細長い指が中に入ってくる。私はドアに左手をつき、右手で自分の口を必死に抑えて黙っていた。

少し浅いところで指が折られ、恥骨の裏あたりを指の腹で擦られる。ぬちゅぬちゅとわざとらしく水音を立てながら、日々樹さんは指を増やした。

「ふふ、もしかしていつもより興奮してます? ……いけない人」

高めの声で、まるで女の人みたいに甘く耳元に囁かれた。それと同時に少し強めに中を擦られたせいで、ぞわぞわとつま先から頭のてっぺんまで快感が押し寄せて、呆気なく達してしまった。

「ひっ、う、ぁああ……っ!」
「おっと。いけませんよ、静かにしてくださいね」

ちゅぽん、と指を抜かれ、脱力した身体が崩れ落ちそうになる。しかしお腹のあたりを片腕で支えられ、お尻を少し突き出すような体勢になってしまった。

冷たいドアに手をついたまま、必死に呼吸をする。体は甘く痺れたまま、この先をずっと欲しがっているようだった。

「そのまま、力は抜いていてくださいね」

彼はそう言って、私の腰を掴みゆっくりゆっくり中に入ってくる。熱い質量感がお腹を満たす。頭の中はもう真っ白で、「ほしい」とか「もっと」とかしか考えられないでいた。彼はそれに答えるように、少しずつ出し入れを始める。

「ひ、……日々樹さん、すき、もっと……もっとして、お願い……」

私が真っ赤になりながらそうねだると、彼は後ろから私の手に自分の手を重ね、体を密着させる。そしてもう片方の手で私の腰をしっかり掴んだまま、器用に腰を打ち付けるのだ。

ぱちゅ、ぱちゅっと肌がぶつかる音がする。少しでも気を抜くと声が出てしまいそうで、必死に唇を噛み締めて我慢していた。

「ん、んんっ、……ぅ、あっ……」

ほんの少し、声が漏れたそのときだった。コンコンコン、とノックの音がしたのだ。

「あの、日々樹先輩いますか?」
「と…………友也くんですか? これはこれは! すみませんが今、少し取り込み中でして……」
「取り込み中?」

一度、奥まで入れられたあと、彼の動きが止まる。薄いドア一枚を隔てた向こうに、日々樹さんの後輩がいるらしい。

恥ずかしさと恐怖とでごちゃごちゃになった頭は、日々樹さんによってまた掻き乱される。会話が終わっていないのに、ゆっくり出し入れを再開し始めたのだ。

「ええ! っどうしても、手が離せないのです。友也くんはどういったご用で?」
「あぁいや、別に……その、見に来たから挨拶でもって思っただけですよ。悔しいけど、やっぱり凄かったから。でもあんたが忙しいなら良いよ、差し入れドアノブに掛けとくから、食べてください。それじゃあ失礼します」
「どうもありがとうございます! またゆっくりお話しましょうね!」

コツ、コツ、コツ……と足音が遠ざかる。ふう、と息をつくと、堰を切ったように激しく奥を突き上げられた。

「あっ!? や、待って、ま、っ……」

さっきまですぐそこに人がいたのに、という羞恥心と、じっくり焦らされた後での衝撃で、またしても簡単に絶頂させられてしまった。私の体がみっともなく痙攣するのにも構わず、彼は腰を打ち付ける。

「ふふ、興奮しました?」
「し、してな、いっ、してないぃ……っ」
「そうですか? ……本当に?」

後ろから掬いとるように顎に手を添えられ、そのまま彼のほうを振り向かされる。

ドレスは肌蹴て、白い首すじにはしっかりとした喉仏が見えた。一瞬、恐ろしさで頭が真っ白になる。けれど重ねられた唇が甘く柔らかくて、強ばった体はすぐに脱力してしまった。

「日々樹さん、」
「……目を開けてはいけませんよ、魔法が解けてしまいますから」

琴糸のような声が、優しく耳元に囁きかける。言われるまま、ほとんど何も考えずに目を閉じた。すると、目を閉じた私の身体の向きを反対にして、今度はドアに背をつける形で彼が中に入ってきた。

頬を掠める柔らかな髪も甘い香りも女性みたいで……目を閉じていれば尚更、女性よりずっと女性らしいひと。

それでも――どうして今まで目を瞑ったままでいられたのだろう――私が彼に求めているものはどうしようもなく男性的なもので、今私を心から求めているのは紛れもなく日々樹渉さん、そのひとなのだ。

「わ、……渉さん、わたる、さん……っ」

ぎゅっと閉じていた目を開ければ、ドレスなんかほとんど脱げてしまった彼が少し驚いたように私を見ている。

「……っキスして、」

正面から彼を見て、それでもキスをねだった。熱に浮かされて恐怖も快感も綯い交ぜになってしまったのかもしれない。けれど何にせよ、目の前の彼だけは、ちっとも恐ろしく思えなかったのだ。

甘く食むようなキスじゃない、もっと情欲に溺れたような深いキスだった。骨ばった大きな手が私の頬を包む。繋がったままの部分が熱くてもどかしい。すぐそばにある紫色の瞳が、余裕なさげに、切なげに私を見つめていた。

「愛しています。なまえさん……愛しているんです、どうか、怖がらないで……貴女を傷付けたりなんかしませんから」

懺悔をするように、彼はそう言った。私は初めて正面から彼の首に抱き着いて、広い背にすがりついた。

「……うん」

きっとまた、彼を見て恐ろしいと思うことがあるだろうと思う。けれど彼が私を傷付けることなんかあるはずがないのだから、恐ろしいだなんて的外れにもほどがある。

……だからきっと、魔法なんて必要ない。滲む視界の中で確かに彼の姿を認めながら、バカみたいに満ち足りた身体と心を実感した。