「おかえりなさい、あなたの、あなただけの! 日々樹渉です……☆」

彼女が帰宅してくるのを、いかにもというふうなエプロン姿で待ち構えておりました。ご飯にしますか、お風呂に……と台詞を続けようとしますが、帰宅した彼女の顔を見るとすっかり台詞が飛んでしまいました。

「わ、渉……っなんで、今日、会えないって……」
「な……泣かないでください、大丈夫ですか?」

珍しく泣きじゃくる彼女を腕の中に迎え入れ、赤子をあやすように背中を優しく撫でます。すると気が抜けたのか、彼女は声を漏らしていっそう泣き始めました。

しばらくすると、彼女も泣き疲れたのか頭が冷えてきたのか、泣くのをやめて少し身体を離しました。

「ごめんね、今日ちょっと……嫌なことがあって、」
「いいえ、構いませんよ。とにかく体を休めましょう! ご飯にしますか、お風呂にしますか、それとも……私にします?」

にこ、と温めていた台詞を口にすると、彼女は私の胸板に顔をうずめ、ぎゅうっと強く私を抱きしめてきました。

「ご飯もお風呂も今はいい……渉にそばにいて欲しい。だめ?」
「フフフ、構いませんよ!」

 珍しく素直に甘えてくる彼女は何となく犬か猫のようで、どうにも庇護欲がそそられます。彼女の膝裏と肩に手を回して丁寧に抱き上げ、寝室までお姫さまのように運んでやりました。

「随分お疲れのようですね」
「……うん。……ううん、疲れては……ないかも。ただ、自分が情けなくて……」

ベッドに横たわった彼女の瞳が、またじわりと涙に揺れます。私は、彼女の赤くなった目元にそっと唇を寄せて、柔らかな髪に指を滑らせました。

「……貴女がどんなに自分のことを嫌になってしまっても、私は変わらず愛していますよ」
「うん……ありがとう、渉」

彼女は穏やかに私の手にすり寄って、静かに微笑みを浮かべました。詳しいことを聞くのは憚られました。恐らく、事情を話す間にも嫌なことを追体験して泣いてしまうでしょうから。私に出来るのは、ただ目の前の愛しい彼女を受け止めてやることだけです。

「暖かいココアをいれましょうか。子守唄も歌って差し上げますよ、貴女の望むままに何でもご用意致します……☆」

私がそう言って彼女の額に唇を寄せると、彼女は少し安心したように笑ってくれました。それから彼女は、甘えた声で穏やかに私に抱き着いてきました。

「じゃあ、このまま一緒にいて……朝まで、ずっと」
「ふふ、お易い御用ですよ」

可愛らしいわがままに口もとをゆるませ、彼女の背に手を回してぎゅうっと抱き返しました。

貴女が外で受ける苦しみや後悔からも、私が守ってあげられたらどんなにいいか。自分のそんなわがままにはそっと蓋をして、せめて彼女が幸せな夢を見られるように願いながら、彼女の背を優しく撫でてやりました。