「……ただいま、っす」

そ〜っとドアを開けて、帰宅。時刻は既に日付を越えた頃。同居人の彼女は恐らくもう眠っているだろうし、起こさないようにと気をつかってなるべく音を立てないようにした。

「おかえり」
「うぉあっ!? ……な、起きてたんすか? もう夜遅いっすよ」
「うん……」

突然寝室から出てきたなまえは、何だか元気がなさげだ。連日オレの帰宅が遅いことを、やはり気にしているんだろうか。

……抱き締めるべきか、いやキザすぎるかな、と迷った時には既に、彼女はリビングに向かっていた。なんとなく不甲斐ない。

「あれ……もしかして、飯、食ってないんすか?」

ラップをかけられ食卓に並んだ皿たちを見て、思わず間抜けな声を上げてしまった。彼女は少し言いにくそうに、うん、と小さく頷く。

「えっと……違うの、その……私、明日お休みだから、遅くなってもジュンくんと食べたくて……。連絡したけど、返事来ないから、どうしようかなって迷ってたの」
「そ……そうなんすか。……そっか。ごめん……お腹空いたでしょ、オレあっためてくるから」
「良いよ、チンするだけだし、ジュンくん疲れてるでしょ」

微妙に、気持ちがすれ違う。結局彼女が用意してくれるのを、オレは大人しく待つことになってしまった。暫くして、目の前に料理が並べられる。やっと向かいの席についたなまえを見ると、やはりどこか浮かない顔をしていた。

「いただきま、」
「ちょっと待ってください」

彼女が手を合わせたところで、とうとう口を挟んでしまう。彼女は少し驚いたような、不安そうな顔色でオレを見た。

「……最近、帰りが遅くてすみません。なまえに寂しい思いさせてるのも……わかってて、それでも仕事だから仕方ねぇって……」
「ジュンくん、良いよ、私なんにも気にしてないから」
「気にしてないわけねぇでしょ、そんな顔して……12時過ぎても飯食わずに待ってるなんて、オレに何か言ってやりたかったんじゃねぇの」
「……何も……」

ぐす、と彼女が鼻をすする。ぽたりとテーブルに落ちた涙を見て、胸が締め付けられる。

「ジュンくんは何も悪くないよ、ただ、一人でご飯食べるの嫌なの……わがまま言ってごめんなさい……」

一人で食べたくない。それは同棲し始めたときから聞いていることだった。彼女は幼い頃、家族と食事をする機会が少なかったらしい。

それで今でも、一人で食事をするのは寂しくて惨めでつらいから嫌なんだと話していた。それなのに、ここ最近は何も言わずに一人で飯を済ませてくれていたのだ。オレの分も作って。

「……違う、オレも……本当はオレも、なまえと一緒に飯、食いたくて……」

じわりと、彼女につられて目頭が熱くなる。バッと立ち上がって、彼女のすぐ隣に回り、跪いた。彼女を見上げて、しっかり目を合わせる。

微妙なすれ違いなんかしたくねぇ。彼女の手をしっかり握って、泣きそうに声を震わせながらみっともなく言葉を選んだ。

「なまえが平気だって言っても、オレは申し訳ねぇと思ってる。……申し訳なく思ってるから、あんたに責めてほしかったんだと思う。あんたに責められたら、ちゃんと謝れるのに……って。でもそんなの不誠実っすよね、なまえから謝るきっかけを作ってほしいなんて」
「……ジュンくん……」
「今の仕事、どうにか早く切り上げられねぇか相談してみるから、だから……明日も、飯、一緒に食いましょうよ。オレもなまえの顔見ながら食いたい。ダメ?」

オレがそう言い切ると、彼女はまたぼろぼろと涙を零しながら、首をぶんぶん横に振った。

「だめじゃない……一緒に食べたい、一人で食べたくないよ……」
「うん。ごめんなさい、本当に……もう寂しい思いさせねぇから」

ぎゅう、と彼女を抱きしめてそういうと、彼女もオレの背中に手を回してぎゅっと抱き返してくれた。

テーブルの上では料理たちが食べられるのをじっと待っている。きっと冷めても平気だろう。二人で食べられるなら、冷めてたって美味いはずだから。