真っ赤
「マヨちゃん!」
彼女の明るげな声に、思わずびくりと肩を震わせました。恐る恐る振り返ると、今日も元気いっぱいに笑顔をうかべた太陽のような彼女が、私に駆け寄ってきます。
「ヒィ、なまえさん、ち、っ近いです……!」
「えぇ、そうでもないよ? ほらほら、怖くないよ〜」
ちちち、とまるで猫の相手をするように、彼女は下から手をちらつかせます。彼女に敵意がないのはわかっていました。私が深呼吸をして少し落ち着きを取り戻すと、彼女は満足そうに笑って歩み寄ってきます。
「ふふ、相変わらず猫ちゃんみたいで可愛い。怖いことなんかしないよ〜ってずっと言ってるのに、やっぱり怖い?」
彼女はいつでも笑顔を浮かべています。こんな醜い私の傍でも、まるで聖母か天使のように微笑み受け入れてくださるのです。けれど真に私が恐れていることの正体を、彼女は知りませんでした。
「マヨちゃんと仲良くなりたいのになぁ」
「……貴女は、恐ろしくないのですか?」
「え、何が?」
私はつい、彼女の手首を掴んでしまいました。離さねばならないと頭ではわかっていても、まるで接着剤でくっつけられたように手が離せなくなってしまったのです。私の手はみっともなくぶるぶると震えていました。
「私が、恐ろしくはないのですか……?」
「……マヨちゃんが? どうして、ちっとも怖くなんかないよ」
彼女の無垢な回答に、胸がいやなざわめきを覚えました。まるで稚児のような真っ白の心をもった彼女に、たとえば私が噛み付いて真紅を残したら、いったいどうなってしまうのでしょう。
……そんなことを考えてしまう己の恥ずかしさと、無垢な彼女を穢してしまうことへの背徳感が綯い交ぜになって、私の背筋をぞくりと冷たくするのです。
「マヨちゃんは良い人だから、怖くないよ。仲良くなりたい」
「あぁ……駄目です、そんな……煽らないでください、」
ドキドキと胸が高鳴って、益々手が離せなくなりました。そして気が付けば、彼女の首に手を回し、その柔らかな桃色のくちびるに噛み付いていました。
「……っえ、ゃ、マヨちゃ、」
ぷつり、私の歯が彼女の柔いくちびるの表面を突き破りました。そこから滲んだ真っ赤な血を舐めとると、この世のなにものより甘い味がするような気がしました。
暫く彼女の赤を味わってから、ようやくくちびるを離し彼女を改めて見つめます。彼女はさっきの血にも劣らぬほど真っ赤な顔をしておりました。
「あぁ…………貴女はどうして、そんなに私を煽るのがお上手なんでしょう……」
理性も消えた頭で、ぼんやりそんなことを呟きました。きっと今の彼女は、先程の真っ赤な血にも劣らぬほど甘美な味がするのでしょう。
今更、怖がらせてすみませんと引き下がることも、臆病者の私にはできません。ただ目の前にあるご馳走に、欲のままありつくことしか……私が恐れていたことはこのことなのですよ。
きっと、貴女には予想もしないことだったのでしょうけれど……。
彼女の明るげな声に、思わずびくりと肩を震わせました。恐る恐る振り返ると、今日も元気いっぱいに笑顔をうかべた太陽のような彼女が、私に駆け寄ってきます。
「ヒィ、なまえさん、ち、っ近いです……!」
「えぇ、そうでもないよ? ほらほら、怖くないよ〜」
ちちち、とまるで猫の相手をするように、彼女は下から手をちらつかせます。彼女に敵意がないのはわかっていました。私が深呼吸をして少し落ち着きを取り戻すと、彼女は満足そうに笑って歩み寄ってきます。
「ふふ、相変わらず猫ちゃんみたいで可愛い。怖いことなんかしないよ〜ってずっと言ってるのに、やっぱり怖い?」
彼女はいつでも笑顔を浮かべています。こんな醜い私の傍でも、まるで聖母か天使のように微笑み受け入れてくださるのです。けれど真に私が恐れていることの正体を、彼女は知りませんでした。
「マヨちゃんと仲良くなりたいのになぁ」
「……貴女は、恐ろしくないのですか?」
「え、何が?」
私はつい、彼女の手首を掴んでしまいました。離さねばならないと頭ではわかっていても、まるで接着剤でくっつけられたように手が離せなくなってしまったのです。私の手はみっともなくぶるぶると震えていました。
「私が、恐ろしくはないのですか……?」
「……マヨちゃんが? どうして、ちっとも怖くなんかないよ」
彼女の無垢な回答に、胸がいやなざわめきを覚えました。まるで稚児のような真っ白の心をもった彼女に、たとえば私が噛み付いて真紅を残したら、いったいどうなってしまうのでしょう。
……そんなことを考えてしまう己の恥ずかしさと、無垢な彼女を穢してしまうことへの背徳感が綯い交ぜになって、私の背筋をぞくりと冷たくするのです。
「マヨちゃんは良い人だから、怖くないよ。仲良くなりたい」
「あぁ……駄目です、そんな……煽らないでください、」
ドキドキと胸が高鳴って、益々手が離せなくなりました。そして気が付けば、彼女の首に手を回し、その柔らかな桃色のくちびるに噛み付いていました。
「……っえ、ゃ、マヨちゃ、」
ぷつり、私の歯が彼女の柔いくちびるの表面を突き破りました。そこから滲んだ真っ赤な血を舐めとると、この世のなにものより甘い味がするような気がしました。
暫く彼女の赤を味わってから、ようやくくちびるを離し彼女を改めて見つめます。彼女はさっきの血にも劣らぬほど真っ赤な顔をしておりました。
「あぁ…………貴女はどうして、そんなに私を煽るのがお上手なんでしょう……」
理性も消えた頭で、ぼんやりそんなことを呟きました。きっと今の彼女は、先程の真っ赤な血にも劣らぬほど甘美な味がするのでしょう。
今更、怖がらせてすみませんと引き下がることも、臆病者の私にはできません。ただ目の前にあるご馳走に、欲のままありつくことしか……私が恐れていたことはこのことなのですよ。
きっと、貴女には予想もしないことだったのでしょうけれど……。