いつも小さく身を屈めていて、夏も冬もぺたんこの靴を履いている。身長が人より高いから、いつもいつも目立ってしまう。男の人には嫌な顔をされる。勝手に色んな期待をされる。私の身長のデメリットなんて、あげだせばキリがない。

メリットは、と言われても簡単には思いつかない。自分の高身長を愛せるほど、私は自己肯定が上手くないから。背の低い可愛らしい女の子を見ると、いつでも羨ましくて、尚更惨めさを感じる。それなのに……。

「……日々樹さん、これ……」
「はい、どうかなさいましたか? サイズはピッタリのはずですが……」

突然プレゼントと言って渡されたのは、ヒールのある靴だった。とっても可愛くて、綺麗で、女の子らしいデザインのもの。

履きたいけれど……履いてみたいけれど、こんなにヒールの高い靴なんて履けない。乱れた心で、ほとんど反射的に箱を彼に突き返した。

「いいです、いりません」
「おや、デザインがお気に召しませんでした?」
「……ヒールの高い靴なんて履けません、私、ただでさえ大きいのに……日々樹さんも抜かしちゃいそう」
「貴女に似合の可愛らしい靴だと思ったのですが……」

彼はそう言いながら、目に見えて残念そうな顔をする。けれど箱は頑なに受け取らず、もう一度私に突き返してきた。

「私の前でだけで構いません。履いていただけませんか? 貴女のすらりと美しい脚によく生えると思うんです」
「……行きつけの眼科を紹介しましょうか?」
「あっはっは! いえいえ、結構ですよ。ふむ、困りましたね……どうすれば履いてくれます?」

彼の真剣な表情に気圧され、つい顔を背けてしまう。どこまで本気なのかわからない。でも、もし、本当許されるのなら履いてみたい。

「……履きますよ。せっかく、買っていただいたんですし……」

真っ赤になりながらそう答えると、彼は満足そうににっこり笑って頷いた。渋々、箱から靴を取り出して、そっと床に置く。コツリと綺麗な音が控えめに床を鳴らした。渋々を取り繕う表情とは裏腹に、私の胸はドキドキと高鳴っていた。

そろり、靴の中に足を入れる。するとすかさず日々樹さんは跪き、私の足にピッタリと靴を履かせた。無言で促され、履いていない方の足を上げれば、そちらも丁寧に履かせてくれた。

「……わあ……綺麗、こんな……」

初めて履いたヒールの靴。少し目線が高くなって、背伸びをしているみたいな気分だ。まるで魔法にかかったみたいに、高揚感で心が踊る。足踏みをするとカツカツ鳴る高い音も、いつもはしない特別を演出してくれる。

「ふふ、やはりお似合いですよ」

日々樹さんはそう言ってスッと立ち上がる。いつもは少し見上げる彼を、今は並んで見てしまっていた。それに気付くと、やっぱり少し恥ずかしくなって下を向いてしまう。

「俯かないでください。せっかく距離が縮まったのですから」
「あ……、きゃっ!」

彼が私の頬に触れようとしたとき、私は思わず後ずさってしまった。そして慣れないヒールにバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。

……けれど、日々樹さんは少し乱暴に私の手首を掴み自分の方へ倒れこませた。思いもよらぬ力に何の抵抗もできず、大人しく彼の腕の中に収まってしまう。

「ご、ごめんなさい……」
「構いませんよ。それより……こうしてくっついていると、鼓動が伝わってきますね。私の心臓と貴女の心臓、こうすると両胸にあるようです」

ぎゅうっと強く抱き締められたうえ、そんなことを言われて、つい胸の辺りを意識してしまう。確かに、自分のものとは違う、彼の鼓動が振動になって私の胸元に響いていた。

「ちょうど重ねられるなんて、そうあることじゃありません。私は嬉しいですよ。その靴は差し上げますので……私の前では、ぜひ履いてください」

優しく、言い聞かせるようにそう諭される。きっと今、実は日々樹さんは魔法使いなのだと言われてもちっとも驚きやしないだろう。あんなに嫌だった身長もヒールも、今はこれで良いと思えているのだから。