素顔を見せて
何となく、わかっていた。この人は私と似ている。もちろん彼のことを何から何まで知っているわけではないから滅多なことは言えないけれど、それでも彼と接するたびに親近感を覚えていた。
「なまえちゃんは、不思議な目でぼくを見るんだね」
不意に、彼はそう言って私の瞳を覗き込んだ。水晶のように透き通った瞳は、そのまま私の心まで見透かしてしまうかのようだった。
「……どんな目ですか?」
「なんなんだろうね? ファンの子がぼくに向ける目とは勿論違うし、ジュンくんや凪砂くんのものとも違うね。なんだか、まるで……母親が子どもに向けるみたいな眼差しだね」
「母親?」
思わぬ喩えについ言葉を繰り返す。彼はうんうんと頷いてから、にっこり笑ってみせた。彼の眼差しだって、まるで子どもに向けるような優しいものだ。でもそれはいつだって、誰にだってそうなのだろう。
「ぼくのことが大好き、って目だね!」
「……それ、結構際どいですよ。まあ日和さんなら、そんなこと言っても誰にも嫌がられないんでしょうけど……」
「際どいも何も、きみはぼくが大好きだよね?」
「そうですね、尊敬してますし、好きですよ。でも男女の云々にも聞こえるような言い方はあまり好ましくないかなって」
はあ、と溜め息をついてから紅茶を口に含む。目の前の彼は何だか不満げに、好物のキッシュを口にした。もぐもぐと行儀よく食べたあと、ごくりと飲み込んでまた口を開く。
「ぼくはなまえちゃんのこと、女の子だと思っているけど」
「…………でも、それは……」
「誤魔化してあげないからね。ぼくはきみのことを女の子として見ているし、こうしてお茶に誘っているのも下心だよね。なまえちゃんは? ぼくのこと、子どもみたいだと思ってる?」
真剣な眼差しに射抜かれた途端、目を逸らせなくなった。見つめてはいけないと知っていた。彼の瞳の奥には、光に隠れた何かがあるから。彼を見つめていると、何だか私の心まで揺り動かされてしまうから。
「日和さん、私、確かに貴方のことずっと見つめてしまってると思います。貴方の気ままな言動とか、一見周囲を振り回しているようで、ちゃんと周りを見て自分のやるべき役を演じていること、とか…………小さい頃、ギスギスしていた両親を何とか落ち着かせようと戯けていた自分に、何となく似ていて」
話すつもりなんてなかったのに、彼の前ではちっとも取り繕えなくなってしまう。彼はただ黙って、私の話を聞いていてくれた。
「日和さんはそれをずっと完璧に続けているんじゃないかって。もしそうなら……烏滸がましいですけど、私の前でくらい、自然体でいてくれたらって思います」
「……そう、そっか。それなら心配しなくて良いね。確かにぼくは仮面の外し方を忘れてしまった可哀想な子どもかもしれないけれど、少なくともきみの前では、そういうことは抜きにしてきみのことだけを考えていられているからね」
彼の綺麗な手が、そっと私の手に重ねられる。視線は未だ交わったまま、違うことはない。何となく、言葉にしなくとも通じるものがあるように思えた。
手の甲に伝わる彼の手のひらの温度が、じんわりと私の心まで温めていく。
「きみも、ずっとぼくのことだけ考えていてね」
「……はい」
「ふふ、いい日和っ」
楽しげに笑う彼が眩しくて、つい目を細めてしまう。もし彼の言うとおり、この笑顔が何の繕いでもないのなら、これ以上幸せなことなんてきっとないだろう。私の前で素顔でいてくれるなら、それだけで充分だ。
「なまえちゃんは、不思議な目でぼくを見るんだね」
不意に、彼はそう言って私の瞳を覗き込んだ。水晶のように透き通った瞳は、そのまま私の心まで見透かしてしまうかのようだった。
「……どんな目ですか?」
「なんなんだろうね? ファンの子がぼくに向ける目とは勿論違うし、ジュンくんや凪砂くんのものとも違うね。なんだか、まるで……母親が子どもに向けるみたいな眼差しだね」
「母親?」
思わぬ喩えについ言葉を繰り返す。彼はうんうんと頷いてから、にっこり笑ってみせた。彼の眼差しだって、まるで子どもに向けるような優しいものだ。でもそれはいつだって、誰にだってそうなのだろう。
「ぼくのことが大好き、って目だね!」
「……それ、結構際どいですよ。まあ日和さんなら、そんなこと言っても誰にも嫌がられないんでしょうけど……」
「際どいも何も、きみはぼくが大好きだよね?」
「そうですね、尊敬してますし、好きですよ。でも男女の云々にも聞こえるような言い方はあまり好ましくないかなって」
はあ、と溜め息をついてから紅茶を口に含む。目の前の彼は何だか不満げに、好物のキッシュを口にした。もぐもぐと行儀よく食べたあと、ごくりと飲み込んでまた口を開く。
「ぼくはなまえちゃんのこと、女の子だと思っているけど」
「…………でも、それは……」
「誤魔化してあげないからね。ぼくはきみのことを女の子として見ているし、こうしてお茶に誘っているのも下心だよね。なまえちゃんは? ぼくのこと、子どもみたいだと思ってる?」
真剣な眼差しに射抜かれた途端、目を逸らせなくなった。見つめてはいけないと知っていた。彼の瞳の奥には、光に隠れた何かがあるから。彼を見つめていると、何だか私の心まで揺り動かされてしまうから。
「日和さん、私、確かに貴方のことずっと見つめてしまってると思います。貴方の気ままな言動とか、一見周囲を振り回しているようで、ちゃんと周りを見て自分のやるべき役を演じていること、とか…………小さい頃、ギスギスしていた両親を何とか落ち着かせようと戯けていた自分に、何となく似ていて」
話すつもりなんてなかったのに、彼の前ではちっとも取り繕えなくなってしまう。彼はただ黙って、私の話を聞いていてくれた。
「日和さんはそれをずっと完璧に続けているんじゃないかって。もしそうなら……烏滸がましいですけど、私の前でくらい、自然体でいてくれたらって思います」
「……そう、そっか。それなら心配しなくて良いね。確かにぼくは仮面の外し方を忘れてしまった可哀想な子どもかもしれないけれど、少なくともきみの前では、そういうことは抜きにしてきみのことだけを考えていられているからね」
彼の綺麗な手が、そっと私の手に重ねられる。視線は未だ交わったまま、違うことはない。何となく、言葉にしなくとも通じるものがあるように思えた。
手の甲に伝わる彼の手のひらの温度が、じんわりと私の心まで温めていく。
「きみも、ずっとぼくのことだけ考えていてね」
「……はい」
「ふふ、いい日和っ」
楽しげに笑う彼が眩しくて、つい目を細めてしまう。もし彼の言うとおり、この笑顔が何の繕いでもないのなら、これ以上幸せなことなんてきっとないだろう。私の前で素顔でいてくれるなら、それだけで充分だ。