「あ、えっと……お疲れさま、朔間くん」
「ああ、お疲れ様……と、何故そんなにぎこちないのかのう。そんなあからさまに避けられると、零ちゃん寂しくなっちゃいますぞい」

くすん、と大袈裟に泣き真似をする彼を見て、思わず笑ってしまった。朔間くんは私より一つ下で、つい先日私の書いた脚本の主演を彼が演じることになったことがきっかけで知り合った。……のだけれど、何となく距離感が掴みにくい。

「なんかほら、テレビで見てるとおじいちゃんキャラだけど、でも改めて考えると年下かあって思って……ね」
「それもそうじゃな。今も敬語なのかいつもの口調なのか微妙になっておるし」

何となく、近寄り難いような気がする。人柄は良いのだろうし、頭も切れる人なのだろう。けれどそれがかえって少し怖かった。美しい瞳と目が合えば全てが奪われてしまいそうで、恐ろしかったのだ。

「朔間くんが楽な話し方で良いよ。確かに言葉は人のありようを表すけれど、そもそも口から出てこないと役割を果たさないものだし……むしろ、私のほうがお姉さんなのにぎこちなくてごめんね」
「ふむ……お姉さん、か。ではお姉さんはどうして頑なに我輩と目を合わせようとしないのか、聞いても良いかの?」

ぐい、と手首を掴まれ引き寄せられ、壁に追いやられる。それでも咄嗟に顔を背けて、地面を見つめた。心臓が変な走り方をしている。絶対嘘だ、絶対年下じゃない、この男。

「や、別に深い意味は……」
「他とは普通に話しておるから、余計に不思議でたまらないんじゃよ。もしかして我輩、知らない間に怖がらせたりしちゃったかの?」
「怖がらせ……っていや、私は貴方の普段お世話してる年下の子どもとは違うんだから」

と、言いながらつい顔を上げてしまった。紅い瞳と、思っていたより至近距離で目が合う。綺麗な目、整った目鼻立ち、滑らかな肌。一瞬で目を奪われてしまった。

「……お姉さん、止まっちゃってるぞい」
「…………うん、ごめん。離れて」
「そんなに怖いかのぅ」
「怖いとかじゃなくて。……普通に、なんか、ドキドキしちゃうから」

まさかこんなに男慣れしていないとは……と我ながら情けなく思い俯くと、彼はくすくす笑って私の耳もとに囁きかけた。

「しちゃう、って何だか悪いことみたいに言うんじゃな」
「……悪いことっていうか、ないでしょ、幾らカッコよくても年下だし……」
「年下年下って、一つしか違わね〜のに?」
「ひゃ……っ」

耳を甘噛みされてつい彼の胸板を押し返す。反射で割と力を入れてしまったのに、彼はびくりともしなかった。

「……はは、真っ赤じゃな。まあ、あまり年下だからと侮らんほうが良いぞ」

朔間くんはそう言って、何だか上機嫌そうに去っていった。ひとり残された私はやっぱり何もかもを全て奪われた気分で、速まったまま戻らない心臓をただ抑えていることしかできなかった。