「たとえば、たとえばの話なんだけどね」

休日の昼下がり、ぼんやりテレビを見ていた彼女が不意に話しかけてきました。本を読む手を止めて彼女のほうを見ると、彼女はこちらに視線も寄越さないまま、宙を見上げながらぽわぽわと言葉を続けました。

「渉が王子さまで私が村娘だったり、逆に私がお姫さまで渉が村人だったりしたら、どんな感じなのかな」
「どんな感じ、というと?」
「んー、なんていうか、もっとロマンチックに出会って恋人になるのかな〜って」

彼女はそう言ってはにかむように笑いました。突然何を、とは思うのですが、その前に思わず彼女の可愛らしい発言に顔が綻んでしまいました。

「どんな関係であっても、恋人になることは確定なのですね」
「え? ……本当だ。そもそも出会わないこともありうるんだね。全然考えてなかった」
「ふふ、考えなくて良いですよ! どのような役であろうと必ず私が貴女を見つけ出して選んでみせます」
「やったぁ」

無邪気な子どものように喜び、彼女はくすくす笑います。窓から差し込む柔らかな太陽の光が彼女の長い睫毛に反射して輝いているのが見えました。

私が画家だったなら、すかさず白いキャンバスに描きつけていたことでしょう。が、今は楽しげな彼女を見守るだけに留めました。

「もっと、ロマンチックな出会いをしたかったのですか?」
「うーん……どうなんだろう? 改めて言われると違う気もする」
「難しいですね」

彼女はうーんと唸りながら小首を傾げ、長考します。その様子が何となく小動物のように見えて、また口もとが緩むのを感じました。

「……あ、あれかな」
「どれです?」
「渉なら王子さまにも村人にもなんにでもなれちゃうし、私のこともお姫さまとか村娘とか……なんにでもしてくれそう。だから渉ともっと沢山遊びたい、が正解かも」

すっきりした、と言いたげに彼女は満面の笑みを浮かべます。その様子があんまりいじらしくて、ついテーブルのうえの彼女の手をとり、そのまま甲にキスをしてしまいました。

「もちろん。貴女が満足するまで演じてみせましょう!」
「ふふ、ほんとに王子さまみたい」

幸せそうに目を細めて笑うその表情が、私にはどうしようもなく愛おしく思えるのです。

もし私たちが彼女の言うとおり今とは異なる役柄に生まれてきたとしても、きっとまた同じように私は彼女に心を奪われてしまうのでしょう。

どんな役であろうと、どんな設定であろうと、私は必ず貴女を愛してしまうのでしょう。そしてこの物語はいつでも、幸福に終わるのです。「こうしてふたりは末永く幸せに暮らしました」という文言を付けて。