幸福な安息日
「さん、……朔間さん」
「ん……あぁ、すまんすまん。すっかり昼寝しておったわい」
木陰で昼寝をしていたところ、不意に高い声に名を呼ばれ起こされた。目を開けて見ると、少し心配そうに眉を寄せた彼女がじっとこちらを見下ろしている。
「どうかしたのかのぅ?」
「……外で寝てたら寒いと思って。ね、中で休もう?」
優しく重ねられた手には、柔らかな体温が伝わってくる。自分の冷えきった肌とは対照的に、子どものように熱い彼女の手。そっと指を絡ませてやるけれど、照れよりも心配のほうがずっと大きいらしい。
「……このまま死んでしまうのが、案外一番幸せなのかもしれぬな」
「そうなの? ……せっかくバレンタインだから、朔間さんでも食べれそうなチョコ作ったのに……食べられないまま死ぬほうが幸せなら、他の人にあげようかな」
「えっ……作ってくれたのかえ? 我輩に……チョコを?」
驚きのあまり、思わず寝そべっていた身体を勢いよく起こした。すると彼女は少しだけ嬉しそうな、いや照れたような顔で笑う。
「ふふ、うん。でも食べずに死んじゃうなら、薫さんにでもあげようかな」
「待った待った、我輩が悪かった。そんなことになったら死んでも死にきれんわい」
「うん……死ぬなんて言わないで。ね」
優しい眼差しが微かに曇る。柔らかそうな白い頬に手を伸ばすと、冷えた指先がじんわりと暖かな体温に溶かされた。
「……悪い」
「ふふ、そんなに真面目に謝らないでよ。ね、ホットチョコレートも作ったの。中で一緒に飲もう」
よいしょ、と愛らしい声を出して彼女は立ち上がる。暖かな陽の光が、逆光となって彼女の顔に影を落とした。彼女の頭の向こうに見える光はさながら天使の輪のようで、つい、眩しさに目を細めた。
「あ〜……」
死んでもいい、と、今死ぬのが幸福なのかもしれない、と馬鹿げたことを思うのはきっと彼女のせいだ。
「朔間さん?」
「……幸せすぎると人間、ダメになっちゃうもんなんじゃなぁ」
「なぁに、それ」
くすくす笑う彼女が、月並みな表現ではあるが天使のようで、だからこそ死んでもいいなんて思えてしまうのだ。死後も変わらず隣で微笑んでくれているなら、もうそれ以上なんていらない……とか。そういうくだらないことを考えてしまう。
「ん……あぁ、すまんすまん。すっかり昼寝しておったわい」
木陰で昼寝をしていたところ、不意に高い声に名を呼ばれ起こされた。目を開けて見ると、少し心配そうに眉を寄せた彼女がじっとこちらを見下ろしている。
「どうかしたのかのぅ?」
「……外で寝てたら寒いと思って。ね、中で休もう?」
優しく重ねられた手には、柔らかな体温が伝わってくる。自分の冷えきった肌とは対照的に、子どものように熱い彼女の手。そっと指を絡ませてやるけれど、照れよりも心配のほうがずっと大きいらしい。
「……このまま死んでしまうのが、案外一番幸せなのかもしれぬな」
「そうなの? ……せっかくバレンタインだから、朔間さんでも食べれそうなチョコ作ったのに……食べられないまま死ぬほうが幸せなら、他の人にあげようかな」
「えっ……作ってくれたのかえ? 我輩に……チョコを?」
驚きのあまり、思わず寝そべっていた身体を勢いよく起こした。すると彼女は少しだけ嬉しそうな、いや照れたような顔で笑う。
「ふふ、うん。でも食べずに死んじゃうなら、薫さんにでもあげようかな」
「待った待った、我輩が悪かった。そんなことになったら死んでも死にきれんわい」
「うん……死ぬなんて言わないで。ね」
優しい眼差しが微かに曇る。柔らかそうな白い頬に手を伸ばすと、冷えた指先がじんわりと暖かな体温に溶かされた。
「……悪い」
「ふふ、そんなに真面目に謝らないでよ。ね、ホットチョコレートも作ったの。中で一緒に飲もう」
よいしょ、と愛らしい声を出して彼女は立ち上がる。暖かな陽の光が、逆光となって彼女の顔に影を落とした。彼女の頭の向こうに見える光はさながら天使の輪のようで、つい、眩しさに目を細めた。
「あ〜……」
死んでもいい、と、今死ぬのが幸福なのかもしれない、と馬鹿げたことを思うのはきっと彼女のせいだ。
「朔間さん?」
「……幸せすぎると人間、ダメになっちゃうもんなんじゃなぁ」
「なぁに、それ」
くすくす笑う彼女が、月並みな表現ではあるが天使のようで、だからこそ死んでもいいなんて思えてしまうのだ。死後も変わらず隣で微笑んでくれているなら、もうそれ以上なんていらない……とか。そういうくだらないことを考えてしまう。