「凪砂くんは神さまなの?」

突然そんな問いかけをした彼女は、どこか寂しげな顔をしていた。彼女に見つめられた彼は、少しの間考えてから、問いに答えるべくその形のいい唇を開く。

「どちらかと言えば、神の子、と言った方が適切なのかもしれない。でもそれはあくまで喩えるならというだけで、私――乱凪砂という個を見れば、単なる生物としての人間でしかないよ。君と同じ」
「キリストだって同じでしょう? 彼も元は人間だったはずなのに、神さまになってしまった」
「そうだね、きっと、そうあるよう望まれたから」

彼がそう話すと、彼女はいっそう顔を曇らせた。そして指先で控えめに彼の袖口を摘み、不安げな瞳で彼を見上げた。彼はその瞳を、正面から真っ直ぐ見つめ返している。

「神さまになんてならないで」
「……どうして?」
「凪砂くんが神さまになっちゃったら、私、きっと傍に居られなくなっちゃうでしょう」
「そうなの?」

彼の無垢な問いかけに、彼女はこくりと頷く。が、彼は躊躇なくその美しい手を彼女の頬に添え、優しく触れた。

「喩えるとしたら、君は天使みたいな人だから、きっと一緒にいられると思うけど」
「……一緒に居させてくれるの?」
「もちろん。私が神さまなら……私が一番偉いのなら、必ず君を傍に置くよ」
「良かった……」

安堵したように彼女は睫毛を伏せて、そっと彼の手に擦り寄る。彼女の柔い頬にも、彼の嫋やかな手にも、同じように体温があった。そのことだけが、彼らにとってこの上ない幸福であり、安心であった。

「でもたぶん、君といれば私はずっとただの人間でいられると思う。……だから、私が神さまにならないように、傍で見張っていて」
「……うん、わかった。約束ね」

彼は彼女の腰に手を回し、引き寄せるように抱き締めてその柔い頬にキスをする。彼女がちらりと彼の瞳を覗き込むと、彼は優しく微笑みその唇にもキスをした。

「…………うん、やっぱり、君といるとただの人間……ううん。寧ろ動物みたいになっちゃいそう」
「あ、凪砂くん、だめ」

彼女の細い腰を抱いて、そのままソファへ押し倒す。彼は彼女を見下ろし、舌なめずりをしている。その眼差しはもう神でも人でもなく、まさにけもののような眼差しだった。