「真白くん……って、いい名字だよね」

なんの脈絡もなく、突然彼女はそんなことを言い出した。いきなりどうしたんだろう、と思いはしたものの、名字を褒められることもあまりないので何となく嬉しい。

「そうですか? ありがとうございます」
「うん。白って良いよね、綺麗で純粋で、凄く好き」

何気なく言われた「好き」に、つい、反応してしまう。まだ熱いレモンティーに焦って口をつけると、舌を火傷してしまった。

「あつ、」
「わ、大丈夫? お水もらう?」
「いや大丈夫ですっ」

ああかっこ悪い、情けない……と自己嫌悪に陥りながら、笑って誤魔化して小さくため息を零す。今日はせっかく初めて二人きりでご飯に来たのに、ちっとも良いところを見せられない。こんなとき、北斗先輩とか日々樹先輩ならもっとスマートにエスコートできるんだろうな。

 と、しょんぼりしていると、店員さんが注文していたパンケーキを持ってきてくれた。ふわふわで分厚い、綿でできたみたいなパンケーキ。彼女は目を輝かせながらお皿を軽く動かして、ふるふると揺れるパンケーキを堪能している。その様子が何だか子供みたいで可愛くって、つい笑ってしまった。

「このパンケーキ、真白くんのほっぺみたい」
「へ?」
「だってほら、こんなにふわふわ」
「流石にこんなに柔らかくないと思いますけど……」

右手で自分の頬を触るけど、いまいち自分ではわからない。そんなに柔らかそうに見えてるのかなあ、と複雑に感じていると、不意に彼女が俺の頬に触れてきた。

「ほら、ふにふにしてる」

突然距離が縮まって、何も言えなくなってしまう。ばくばくと焦る心臓にも構わず、彼女は満足そうににっこり笑った。

「あ……あのっ」

緊張で少し震える手のまま、俺の頬に触れる彼女の手首を掴んだ。思っていたよりずっと細っこくて、力を込めたら折れてしまいそうだ。

「……真白くんじゃなくて、友也って、呼んでくれませんか」

なんで今言ったんだ、とか、いきなりそんな図々しいこと言って良かったのかとか、瞬時にそんなことが頭をよぎる。でも向かい合った彼女が少し頬を赤くしてはにかむのを見て、頭の中が真っ白になった。

「と…………友也くん?」
「あ……ありがとうございます……! ごめんなさい、いきなり手掴んじゃって」
「ううん、平気……でもなんか、その、ちゃんと男の子なんだね。手、おっきくてちょっとドキッとしちゃった」

そう言って、彼女は照れたように視線を逸らす。格好なんてつかないし、多分ちっとも異性として見られてないんだろうけど、今日はやっと一歩前進したのかもしれない。

 でもその後食べたふわふわのパンケーキは、緊張でちっとも味がしなかった。