「う〜ん……ただいまあ」
「おー、おかえり……って顔真っ赤だな」

いつもより遅い時間に帰ってきた恋人を迎えると、彼女はどうやら珍しく深酒したらしく、真っ赤な顔で俺を見てふにゃりと笑った。玄関先でハグをするように身体を支えて、コートを脱がせる。

「ん〜、ちょっと酔っちゃったかも」
「それ酔ってない女の子がよく言うやつじゃん。ほら、リビングまで頑張って歩け〜」

よたよたと覚束無い足取りの彼女をリビングまで引っ張り、とりあえずソファに座らせる。

「ちょっと待ってな、水持ってくるから」
「や〜だ」

俺がキッチンに水を取りに行こうとすると、ぎゅうっと首もとに抱き着かれた。普段はあんまりこういう甘え方してくれないから、正直すごく嬉しい。けどこんなに酔ってるなら水はたくさん飲んだほうが良いだろう。

「やだって言ってもなぁ。水飲まないと酔い覚めないぞ」
「ぎゅってしてからがいい」
「え〜……酔うとそんな感じだったっけ……?」
「酔ってませんけど」

むすっと頬を膨らませる様子はどう見ても素面じゃない。確かに思い返してみればこんなに真っ赤になるまで飲んでいるところは今まで見たことがなかった。普段とは違う一面が見られるのは、なんとなく胸がむずむずする。

「じゃあ……はい、ぎゅー! これでいいか?」
「あはは、真緒くん子どもみたい、可愛い〜」
「どの口が……ほら、いい加減水飲まないと」
「うん、いい子にします」

熱い腕を外して体を離し、コップに水を注いでくる。彼女はコップを両手で受け取ると、こくこくと一気に水を飲み干した。空になったコップを受け取り机に置いて彼女の隣に腰掛けると、ぽすんと肩に頭を預けられた。

「……今日、はさ〜」
「うん?」

彼女の手を取り、指を絡ませて手を握りながら、ぎこちなく話を切り出す。

「その……何の集まりだったのかなーって」

こんなに酔ってしまった彼女をもし他の男に見られていたら、と思うと、何となくもやもやしてしまう。付き合いもあるだろうし多少は仕方ないとはわかっていても、やっぱり好きだと思えば思うほど同じくらいやきもちだってやいてしまう。

「今日は幼馴染みと会ってたの。心配しなくても、女の子だけだよ」

彼女はにこにこ笑いながらそう言って、よしよしと俺の頭を撫でてきた。

「このままカラオケでも行ってオールしよって言われたけど、真緒くんに会いたくて断っちゃった」
「……俺には毎日会えるのに?」
「毎日会っても足りないくらい好きだからね〜」

こんなに酔っ払ってるくせに、彼女はちょうど俺が欲しいような、喜ぶような言葉を口にする。わざとなのかそうじゃないのかはわからないけど、どちらにせよ頬が弛んでしまうあたり俺は単純なのかもしれない。

「わがまま言ってもいいか?」
「うん?」
「……その、明日ちゃんと酔いが覚めてから、もう一回好きって言ってほしい……な〜、と」

照れくさくなりながらそう言って彼女のほうを見ると、何だかすごく嬉しそうな顔で笑っていた。

「うん、いいよ。ちゃんと好きっていってあげる、真緒くんも好きって言ってね」
「……うん。うん、あー駄目だ。にやける……」

勝手に上がる口角を手で隠して誤魔化す。結局そのあと、彼女はそのまま眠ってしまった。寝室に運んで電気を消して、同じベッドにもぐりこむ。早く明日にならないかな、なんて年甲斐もなく遠足前の子どもみたいにわくわくしていた。

 まあ翌朝、彼女は諸々のことを全部忘れちゃってたんだけど。