怖い吸血鬼
真夜中、人の気配で目を覚ました。まだ覚醒しきっていない目を擦りながら身体を起こす。すん、と嗅覚を研ぎ澄ますと、どこからか甘い血の香りがした。立ち上がって身体を伸ばし、つかつかと部屋を出る。
外は嵐のようで、誰もいない広い屋敷には雨の屋根や窓を打ちつける音が響いていた。玄関口まで行って古い扉を開けば、雨に濡れ脚に怪我を負った少女が驚いたようにこちらを見上げた。
⚠R15くらいです⚠
⚠朔間零がガチの吸血鬼です⚠
「おやおや。こんな時間に誰かと思えば、随分愛らしい来客じゃのう」
「あ……こ、こんばんは。えっと……み、道に迷ってしまって、それで……」
おどおどと言葉に迷いながら、少女は慌てて立ち上がろうとする。が、脚の怪我が痛むらしくふらりとよろけてしまった。咄嗟に引き寄せ支えてやるが、随分身体が冷たい。迷子になって雨に打たれ、濡れたままこの玄関先で凍えていたのだろう。
「よしよし、寒かったのう。おいで、身体を拭いてやろう」
「ありがとうございます……」
少女を招き入れ、自室へ戻る。大きなタオルで簡単に身体を拭いてやり、暖炉に火をつけた。まともな食糧もないので大したことはしてやれないが、あのまま雨に打たれ続けるよりはいくらかマシだ。
「怪我を見ても良いかや?」
「は、はい……森の中で、とらばさみに足を取られてしまって」
「うへぇ、それは痛いやつじゃな……どれ、」
少女をベッドの縁に座らせると、華奢な足首をとって、まだ血の流れる傷をじっくり眺める。ちらりと少女を見上げると、どことなく不安げな顔をしていた。ぐう、と腹が鳴る。……ちょっとくらいなら死ぬこともないだろう。そう考えてごくりと喉を鳴らし、べろりと舌で滴る血を舐めとった。
「ひゃっ……!?」
「……うん、やはり美味いのう」
逃げようとする脚を掴み、傷を舐める。普段は薫くんがどこからか調達してくる輸血パックを飲まされているから、こうして温かい生き血を吸うのは久しぶりだった。あまり吸いすぎないように注意しつつも、ついつい傷に舌をねじ込んで血を出させてしまう。
「いっ……、ゃ、痛い……!」
「おっと、すまぬ、つい。ああ……泣かないでおくれ。我輩が悪かったわい、こんなに美味な血を飲むのも久々だったものでな」
脚を離して少女のほうを見ると、真っ赤な顔で涙を流していた。
「血が美味しいって……お兄さん、吸血鬼なんですか?」
「そうじゃよ。聞いたことがあるじゃろ、森の奥の洋館にはこわぁい吸血鬼が住んどる……と」
「私のこと、殺すんですか?」
「はは、殺さぬよ、我輩優しいタイプの吸血鬼じゃから……ちょっとつまみ食いしただけじゃよ。痛くしてすまんのう」
脱力しきってベッドに横たわる少女に近づき、にっこり笑ってみせる。白いシーツに埋もれる綺麗な白い首すじが無防備に見えていた。この薄い皮膚を喰い破って、下に流れる血液をすべて吸いとってしまいたい……と思わないでもないが、人間を殺すと後処理が面倒なので思いとどまった。
「いやあ、しかしお主の血は美味いのう。輸血パックがまずいというのはあるんじゃが、それにしても今まで飲んだ中で一番じゃ。鼻に抜ける芳醇な香りがたまらんのう、ここ百年で一番の出来じゃな」
「ふふ、なんかボジョレーヌーヴォーみたい」
まだベッドに組み敷かれたままの体勢だと言うのに、少女はそんなことを言ってくすくすと笑った。肝が据わっているな、と感心しつつ、まだ水気の残る柔らかな肌に指を這わせ、頸動脈あたりを撫でる。
「……もう少し味見したいのう」
「えっ……嫌です」
「なら力づくで、と言いたいところじゃが紳士的ではないのう。どうしたものか」
「痛いのはちょっと……ごめんなさい」
「ほう? 痛くなければ良いんじゃな?」
にやりと笑みを浮かべ、まだきょとんとしている少女のふっくらとした唇に触れる。そのまま軽くキスをしてやるが、やはりまだ状況を理解していないような、不思議そうな顔をしていた。
「嬢ちゃん、蚊にかまれたことはあるかや?」
「はい、ありますけど……」
「あれも血は吸っておるけど、痛くないじゃろ? それと同じでのう、吸血鬼も吸血のとき痛みを感じさせなくできるんじゃよ」
「蚊と同じ……じゃあ痒くなるんですか?」
いまいち危機感がない反応に苦笑しながら、胸もとをはだけさせる。やはり抵抗の意思はない。
「いや、痒くはならぬよ。ただちょっと……不思議な感覚があるかもしれぬな。まあ万が一痛かったらすぐに言っておくれ」
実際には痛みを麻痺させる代わりに快感を与えるのだが、気持ち良くなるだとか快感が云々などと言っても恐らく伝わらないだろう。あの血の美味さからして処女なのは確実で、そのうえこれ程までに男に対する警戒心が希薄なのだから、その類いのことには無頓着なはずだ。
頸動脈は避け、首から肩にかけての曲線を舌でなぞる。少女の両手が不安げに両肩を掴んできた。十分唾液で肌を濡らしてから、一気に牙を立てて肌を喰い破る。
「あっ……! や、なに、待って……」
じゅる、と溢れる血を吸い取ると、肩を掴む手に力が入った。びくりと跳ねる身体をおさえつけ、半ば衝動的に、本能のまま吸血を続けた。
「まって、やだっ! なん、何か変なの、待って……!」
「ん〜……痛いのかや?」
「違う……っちがうけど、」
「ならやめずともよいな」
食い破った傷を舐めながら様子を窺うと、可哀想なほど顔を真っ赤にして、動揺し目に涙を浮かべている。暫く経ってひとしきり吸血に満足すると、最後に傷あとを舌でなぞり口を離した。
「いやぁ、吸いすぎて殺しちゃうところじゃった。いかんいかん……大丈夫かや?」
息を乱し、額にはじっとり汗を浮かべ、少女はこちらを見る。初めての快感に驚いたのか、うまく言葉が出てこないらしかった。
「それにしても本当に美味いのう。いっそこのまま手足を切り落として我輩だけの非常食にしちゃいたいくらいじゃ……♪」
よしよしと頭を撫でながらそんな冗談を言うと、少女はなんとも言えない顔で笑った。
「さて。疲れたじゃろう、もう何もせんからゆっくり休むと良い」
そっと瞼を閉じさせて、軽く布団をかけてやる。少女は疲れきった様子で何も言わず、大人しくそのまま眠ってしまった。
このまま嵐が続いて、ずっとこの館に留まっていてくれたら……なんて、流石に欲張りすぎだろうか。
外は嵐のようで、誰もいない広い屋敷には雨の屋根や窓を打ちつける音が響いていた。玄関口まで行って古い扉を開けば、雨に濡れ脚に怪我を負った少女が驚いたようにこちらを見上げた。
⚠R15くらいです⚠
⚠朔間零がガチの吸血鬼です⚠
「おやおや。こんな時間に誰かと思えば、随分愛らしい来客じゃのう」
「あ……こ、こんばんは。えっと……み、道に迷ってしまって、それで……」
おどおどと言葉に迷いながら、少女は慌てて立ち上がろうとする。が、脚の怪我が痛むらしくふらりとよろけてしまった。咄嗟に引き寄せ支えてやるが、随分身体が冷たい。迷子になって雨に打たれ、濡れたままこの玄関先で凍えていたのだろう。
「よしよし、寒かったのう。おいで、身体を拭いてやろう」
「ありがとうございます……」
少女を招き入れ、自室へ戻る。大きなタオルで簡単に身体を拭いてやり、暖炉に火をつけた。まともな食糧もないので大したことはしてやれないが、あのまま雨に打たれ続けるよりはいくらかマシだ。
「怪我を見ても良いかや?」
「は、はい……森の中で、とらばさみに足を取られてしまって」
「うへぇ、それは痛いやつじゃな……どれ、」
少女をベッドの縁に座らせると、華奢な足首をとって、まだ血の流れる傷をじっくり眺める。ちらりと少女を見上げると、どことなく不安げな顔をしていた。ぐう、と腹が鳴る。……ちょっとくらいなら死ぬこともないだろう。そう考えてごくりと喉を鳴らし、べろりと舌で滴る血を舐めとった。
「ひゃっ……!?」
「……うん、やはり美味いのう」
逃げようとする脚を掴み、傷を舐める。普段は薫くんがどこからか調達してくる輸血パックを飲まされているから、こうして温かい生き血を吸うのは久しぶりだった。あまり吸いすぎないように注意しつつも、ついつい傷に舌をねじ込んで血を出させてしまう。
「いっ……、ゃ、痛い……!」
「おっと、すまぬ、つい。ああ……泣かないでおくれ。我輩が悪かったわい、こんなに美味な血を飲むのも久々だったものでな」
脚を離して少女のほうを見ると、真っ赤な顔で涙を流していた。
「血が美味しいって……お兄さん、吸血鬼なんですか?」
「そうじゃよ。聞いたことがあるじゃろ、森の奥の洋館にはこわぁい吸血鬼が住んどる……と」
「私のこと、殺すんですか?」
「はは、殺さぬよ、我輩優しいタイプの吸血鬼じゃから……ちょっとつまみ食いしただけじゃよ。痛くしてすまんのう」
脱力しきってベッドに横たわる少女に近づき、にっこり笑ってみせる。白いシーツに埋もれる綺麗な白い首すじが無防備に見えていた。この薄い皮膚を喰い破って、下に流れる血液をすべて吸いとってしまいたい……と思わないでもないが、人間を殺すと後処理が面倒なので思いとどまった。
「いやあ、しかしお主の血は美味いのう。輸血パックがまずいというのはあるんじゃが、それにしても今まで飲んだ中で一番じゃ。鼻に抜ける芳醇な香りがたまらんのう、ここ百年で一番の出来じゃな」
「ふふ、なんかボジョレーヌーヴォーみたい」
まだベッドに組み敷かれたままの体勢だと言うのに、少女はそんなことを言ってくすくすと笑った。肝が据わっているな、と感心しつつ、まだ水気の残る柔らかな肌に指を這わせ、頸動脈あたりを撫でる。
「……もう少し味見したいのう」
「えっ……嫌です」
「なら力づくで、と言いたいところじゃが紳士的ではないのう。どうしたものか」
「痛いのはちょっと……ごめんなさい」
「ほう? 痛くなければ良いんじゃな?」
にやりと笑みを浮かべ、まだきょとんとしている少女のふっくらとした唇に触れる。そのまま軽くキスをしてやるが、やはりまだ状況を理解していないような、不思議そうな顔をしていた。
「嬢ちゃん、蚊にかまれたことはあるかや?」
「はい、ありますけど……」
「あれも血は吸っておるけど、痛くないじゃろ? それと同じでのう、吸血鬼も吸血のとき痛みを感じさせなくできるんじゃよ」
「蚊と同じ……じゃあ痒くなるんですか?」
いまいち危機感がない反応に苦笑しながら、胸もとをはだけさせる。やはり抵抗の意思はない。
「いや、痒くはならぬよ。ただちょっと……不思議な感覚があるかもしれぬな。まあ万が一痛かったらすぐに言っておくれ」
実際には痛みを麻痺させる代わりに快感を与えるのだが、気持ち良くなるだとか快感が云々などと言っても恐らく伝わらないだろう。あの血の美味さからして処女なのは確実で、そのうえこれ程までに男に対する警戒心が希薄なのだから、その類いのことには無頓着なはずだ。
頸動脈は避け、首から肩にかけての曲線を舌でなぞる。少女の両手が不安げに両肩を掴んできた。十分唾液で肌を濡らしてから、一気に牙を立てて肌を喰い破る。
「あっ……! や、なに、待って……」
じゅる、と溢れる血を吸い取ると、肩を掴む手に力が入った。びくりと跳ねる身体をおさえつけ、半ば衝動的に、本能のまま吸血を続けた。
「まって、やだっ! なん、何か変なの、待って……!」
「ん〜……痛いのかや?」
「違う……っちがうけど、」
「ならやめずともよいな」
食い破った傷を舐めながら様子を窺うと、可哀想なほど顔を真っ赤にして、動揺し目に涙を浮かべている。暫く経ってひとしきり吸血に満足すると、最後に傷あとを舌でなぞり口を離した。
「いやぁ、吸いすぎて殺しちゃうところじゃった。いかんいかん……大丈夫かや?」
息を乱し、額にはじっとり汗を浮かべ、少女はこちらを見る。初めての快感に驚いたのか、うまく言葉が出てこないらしかった。
「それにしても本当に美味いのう。いっそこのまま手足を切り落として我輩だけの非常食にしちゃいたいくらいじゃ……♪」
よしよしと頭を撫でながらそんな冗談を言うと、少女はなんとも言えない顔で笑った。
「さて。疲れたじゃろう、もう何もせんからゆっくり休むと良い」
そっと瞼を閉じさせて、軽く布団をかけてやる。少女は疲れきった様子で何も言わず、大人しくそのまま眠ってしまった。
このまま嵐が続いて、ずっとこの館に留まっていてくれたら……なんて、流石に欲張りすぎだろうか。