「うん……失敗だな……」

目の前のよくわからない物体を見て、ぽつりとそう呟く。確かに手順通りにクッキーを作ろうとしていたはずなのに、気がついたらまさに芸術が爆発してしまった。

「う〜〜っこんにゃとこまでメルティ♡キッチンに合わせにゃくていいのに〜……」

時計を見れば、時刻はもう夕方。もたもたしているうちになまえが帰ってくる。キッチンも綺麗にしなくちゃいけないし、クッキーに関しては大人しく諦めて、また後日再挑戦するしかないのかもしれない。はあ、と大きな溜め息をついて、クッキーもどきを皿の上に避難させる。

そろそろ付き合い始めて半年になるから、なまえの好きなチョコチップクッキーを作ってあげようと思っただけなのに。どうしてこう、肝心なところで上手くいかないんだろう。

「ただいま〜」
「うわっ!? お、おかえりっ!」

思っていたよりも早かった帰宅に驚き、クッキーもどきも汚しちゃったキッチンも隠せないままなまえを迎えてしまった。なまえはびっくりしたみたいに目を見開いてから、目敏くクッキーもどきを見つける。

「えーっと……クッキー作ってたの?」
「ご、ごめんにゃ、すぐかたづけりゅかりゃ、」
「そんなに焦らなくても。もーらいっ」
「あっ!?」

なまえは見た目がとても食べ物とは思えないそれを、何の躊躇いもなく口に入れた。

「ん? ……うん、見た目はちょっとアレだけど美味しい!」
「えっ? ほんとか?」

うん、となまえがニコニコ笑うから、試しにひとつ齧ってみた。確かに見た目は完全な失敗だけど、案外味は悪くない。

「うぅ……複雑な気分だ……」
「なんでなんで、ほら座って一緒に食べよ?」
「うん……」

おれがクッキーをテーブルに運ぶと、なまえはお揃いのマグカップに牛乳を入れて持ってきた。向かい合って椅子に座れば、なんだか嬉しそうにニコニコ笑うなまえと目が合う。

「帰って来てなずなくんがいるだけでも幸せなのに、私の好きなクッキーまで作ってくれてるなんて、もう幸せすぎて死んじゃいそう」
「大袈裟だな〜……でも、ありがとな。今度こそしっかり美味しいの作るから……」
「ね、今度は一緒に作ろう? そのほうが楽しいよ」

やっぱり楽しそうな、幸せそうな顔でなまえは笑っている。おれがどれだけかっこ悪いところを見せちゃったとしても、なまえは呆れることなく傍にいてくれる。おれを楽しませようとしてくれる。

こういうところが好きなんだよなあ、って、ちょっと照れくさくて上手く伝えられないけど。

「……うん。じゃあ今週末までに、もう一回レシピ見直しとくよ」
「うん! ふふ、楽しみ」

こういう何でもない幸せな時間がいつまでも続いてくれたらいいな、と思う。今度はもう少し見栄えのいい、二人で一緒に作ったクッキーを添えて。