愛の相
「……私、本当にきみを愛せている?」
「え……」
広いベッドに私を押し倒し、手を握った状態で、彼は突然そんなことを言い出した。心臓が嫌な跳ね方をする。彼がまるで別れ話みたいに苦しげに言うものだから、つい嫌な方向に考えてしまったのだ。
「……私にはわからないよ、凪砂くんが……私のことを本当に愛してるかどうかなんて。少なくとも私は、愛されてるって、思ってたけど……勘違いだった?」
「ううん。……私もきみを愛してる。と、思う。でも……わからないんだ。きみをこうして組み敷いていると、胸がざわざわする。これも愛なのかな。日和くんや父には感じないものだから、わからない」
彼はそう言って不安げに視線を逸らした。
そりゃあ、家族に対する愛情と恋人に対する愛情は別物だろう。恋人には情欲がともなうけれど、家族には違うもの。単にそれが、彼には理解し難いのだろうか。彼は頭を抱えて、ちら、と指の間から私を見下ろす。そのオレンジ色の瞳はまるでえものを前にした肉食獣のようだった。
「……私、きみを傷つけてしまいたい」
低い声が、懺悔をするように小さく呟く。ぞくりと背筋に何か冷たいものが走った。けれどそれは恐怖ではなく、寧ろ高揚感に近いものだった。
私が何も言えないでいると、彼の大きな手が、ぬ、っと私のデコルテに当てられる。そのまま胸もとに触れて、じいっと私の心音を聞いていた。
「きみの心音を乱したい。その瞳を涙で濡らしたいし、その声で私だけにすがりついてほしい……きみが私なしでは生きていけないような体になってくれたら、なんて思ってしまうんだ」
ごめんね、と言いながらも、彼は私から離れる気など毛頭ないようだった。
「……大丈夫だよ。私、もうとっくに凪砂くん無しじゃ生きられないから」
優しく囁いて頬に手を添えると、凪砂くんはとうとう噛みつくようなキスをしてきた。ゆっくりと堕ちていくような心地がした。
いっそ、生まれ変わっても消えないような深い傷をつけてほしい。きっと、それこそが紛れもない愛に違いないのだから。
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余談:タイトルの読みは 相(すがた) です