今夜だけ
「もう……ほんっと〜に最悪、死にたい……」
隣でカウンターに突っ伏して嘆く彼女を、俺は酒のつまみにしながらニヤニヤ笑っていた。半年くらい付き合って半同棲していた彼氏が、家に女を連れ込んでいたらしい。
今度こそすごく良い人だとか運命だとか、くだんね〜ことを言いながらはしゃいでいた半年前からは予想できない――いや、なんとなくこうなるのではと思っていたが――みじめな姿だ。
「死にたいのかのう? 本当かや?」
「いや、殺したい……! なんで私が死ななきゃいけないのよ、あんなゴミ、クソ……っうぅ、でも優しかったんだもん……好きだったのに、」
彼女はまたじわりと目に涙を浮かべて、グッと酒を煽る。何故、付き合って三日も経たずに家に入り浸ってくる男を「優しい良い人」と評価するのか。彼女の男を見る目は洒落にならないほどにない。惚れっぽいわけでもないくせに、付き合う男は大体難がある。
「本当に面白いのう、そろそろまともな恋愛をしたいとは思わぬのかえ?」
「最初からまともな恋愛しか求めてないし……私、本当に人を見る目ないんだと思う……優しくされると良い人だって思っちゃう」
「うむ、改めた方が良いじゃろうな。利用できると思われたら搾取される一方じゃぞ……というのは今嫌というほど身に染みておるかのう」
「えーん……」
二、三年前に彼女とバーで知り合って、飲み友達になって、俺もそれなりに彼女には優しくしているつもりだがそういうことになったことは一度もない。やはり頑なにいつものキャラを貫いているからだろうか。彼女は俺には一切そういう目を向けず、ずっと嫌な恋愛遍歴を重ねて続けている。
「まあ、飲んで忘れるに限るのう。忘れてさっさと次を見つけることじゃな。なぁに、男なぞ掃いて捨てるほどおる。すぐに良い相手が見つかるじゃろ」
「うん……」
グラスに口をつける彼女を、アルコールでふわついた頭で何となくじっと見つめていた。彼女が視線に気付いて俺を見つめ返したとき、映画のワンシーンみたいに店内の喧騒が消えた、ような気がした。
一瞬だけ触れてしまった唇は、今しがた飲んだばかりのカクテルで甘く濡れていた。
彼女は指先で自分の唇に触れてから、少し拗ねたような顔で俺を見る。
「酔ってる?」
「…………うん」
「そっか」
「いや、嘘だな。酔ってね〜よ」
思い切って彼女の手首を掴むと、彼女は驚いたように目を丸くした。お互い何も言えずに沈黙が続く。黙っていると、情けないほどに早くなった鼓動が彼女に伝わってしまいそうな気がした。
「……変なの」
ふっと笑って、彼女は俺の手を外しそのまま手を握ってきた。熱い手のひらがぴったりと重なり合う。いや、やっぱり酔っているかもしれない。頭の中はくらくらするほど浮ついている。
「うん、でも、私は酔ってるかも」
「……悪い女」
「そうかな」
「そうだよ」
グラスに残っていたウイスキーをぐっと煽り、空になったグラスをカウンターに置いた。店主を呼んで会計を済ませ、手を繋いだまま店を出る。夜風が熱い体を通り抜けても、やはり熱は冷めそうになかった。
隣でカウンターに突っ伏して嘆く彼女を、俺は酒のつまみにしながらニヤニヤ笑っていた。半年くらい付き合って半同棲していた彼氏が、家に女を連れ込んでいたらしい。
今度こそすごく良い人だとか運命だとか、くだんね〜ことを言いながらはしゃいでいた半年前からは予想できない――いや、なんとなくこうなるのではと思っていたが――みじめな姿だ。
「死にたいのかのう? 本当かや?」
「いや、殺したい……! なんで私が死ななきゃいけないのよ、あんなゴミ、クソ……っうぅ、でも優しかったんだもん……好きだったのに、」
彼女はまたじわりと目に涙を浮かべて、グッと酒を煽る。何故、付き合って三日も経たずに家に入り浸ってくる男を「優しい良い人」と評価するのか。彼女の男を見る目は洒落にならないほどにない。惚れっぽいわけでもないくせに、付き合う男は大体難がある。
「本当に面白いのう、そろそろまともな恋愛をしたいとは思わぬのかえ?」
「最初からまともな恋愛しか求めてないし……私、本当に人を見る目ないんだと思う……優しくされると良い人だって思っちゃう」
「うむ、改めた方が良いじゃろうな。利用できると思われたら搾取される一方じゃぞ……というのは今嫌というほど身に染みておるかのう」
「えーん……」
二、三年前に彼女とバーで知り合って、飲み友達になって、俺もそれなりに彼女には優しくしているつもりだがそういうことになったことは一度もない。やはり頑なにいつものキャラを貫いているからだろうか。彼女は俺には一切そういう目を向けず、ずっと嫌な恋愛遍歴を重ねて続けている。
「まあ、飲んで忘れるに限るのう。忘れてさっさと次を見つけることじゃな。なぁに、男なぞ掃いて捨てるほどおる。すぐに良い相手が見つかるじゃろ」
「うん……」
グラスに口をつける彼女を、アルコールでふわついた頭で何となくじっと見つめていた。彼女が視線に気付いて俺を見つめ返したとき、映画のワンシーンみたいに店内の喧騒が消えた、ような気がした。
一瞬だけ触れてしまった唇は、今しがた飲んだばかりのカクテルで甘く濡れていた。
彼女は指先で自分の唇に触れてから、少し拗ねたような顔で俺を見る。
「酔ってる?」
「…………うん」
「そっか」
「いや、嘘だな。酔ってね〜よ」
思い切って彼女の手首を掴むと、彼女は驚いたように目を丸くした。お互い何も言えずに沈黙が続く。黙っていると、情けないほどに早くなった鼓動が彼女に伝わってしまいそうな気がした。
「……変なの」
ふっと笑って、彼女は俺の手を外しそのまま手を握ってきた。熱い手のひらがぴったりと重なり合う。いや、やっぱり酔っているかもしれない。頭の中はくらくらするほど浮ついている。
「うん、でも、私は酔ってるかも」
「……悪い女」
「そうかな」
「そうだよ」
グラスに残っていたウイスキーをぐっと煽り、空になったグラスをカウンターに置いた。店主を呼んで会計を済ませ、手を繋いだまま店を出る。夜風が熱い体を通り抜けても、やはり熱は冷めそうになかった。