消えないもの
物憂げな愛らしい瞳。頬杖をついたまま、彼女はじっと向こうの方を見つめていました。何度も溜め息をついて、切なげで愛しげな視線を彼へ向けています。
恋をする乙女のなんと可憐で美しいことでしょうか。これこそ愛、私の最も尊び求める愛そのものなのです。それならば今の私のこころは喜怒哀楽の喜楽であるべきなのでしょう。
――それがどうして、こんなにも苦しくもどかしいのでしょうか。
「……英智が気になりますか?」
「えっ、あ、日々樹さん。や……違、わなくはない、です」
「フフ、正直でよろしい! いやあ、熱烈ですね。告白なさらないのですか?」
彼女の隣に腰掛けると、彼女は顔を赤くして両手で頬を抑えました。
「しません。しませんよ……困らせたくないですし、叶わないのはわかってますから」
「いえいえ、どうなるかなんて誰にもわかりませんよ」
「……ううん。英智さん、もう婚約者がいらっしゃるって……この前教えてくれたんです。だからもう……こうやって見つめているだけで、私は十分ですから」
彼女はそう言いながら誤魔化すように笑いました。それがまるで神に誓いをたてる聖女のようで、ますます私の胸は苦しく締め付けられるのです。どうして私ではいけないのでしょう……などと、烏滸がましいことはとても言葉にできませんでした。
この舞台において、私はただの道化に過ぎません。初めから、私には彼女の相手役など任されていないのです。
私は彼女の目の前に一輪の紅い薔薇を出して、その柔らかな手に持たせました。
「無責任なことは言えませんが……少なくとも私は貴女に輝かしい未来があるようにと、心から願っていますよ」
「……ありがとうございます」
彼女はそう言って薔薇を大切そうに握り、優しく微笑みました。いろいろな汚くおぞましい身勝手な思いをすべて道化の仮面の下に押し込んで、サッと身を引きます。
「……さて! そろそろ失礼いたします。また機会があれば!」
「はい、また」
これ以上余計な真似をしないようにと、大股でその場を後にしました。いっそ、英智と彼女が結ばれてくれたなら良いのですが……いいえ、もしそうなったとしても、きっと私のこの苦しさは消えてくれないのでしょうね。
恋をする乙女のなんと可憐で美しいことでしょうか。これこそ愛、私の最も尊び求める愛そのものなのです。それならば今の私のこころは喜怒哀楽の喜楽であるべきなのでしょう。
――それがどうして、こんなにも苦しくもどかしいのでしょうか。
「……英智が気になりますか?」
「えっ、あ、日々樹さん。や……違、わなくはない、です」
「フフ、正直でよろしい! いやあ、熱烈ですね。告白なさらないのですか?」
彼女の隣に腰掛けると、彼女は顔を赤くして両手で頬を抑えました。
「しません。しませんよ……困らせたくないですし、叶わないのはわかってますから」
「いえいえ、どうなるかなんて誰にもわかりませんよ」
「……ううん。英智さん、もう婚約者がいらっしゃるって……この前教えてくれたんです。だからもう……こうやって見つめているだけで、私は十分ですから」
彼女はそう言いながら誤魔化すように笑いました。それがまるで神に誓いをたてる聖女のようで、ますます私の胸は苦しく締め付けられるのです。どうして私ではいけないのでしょう……などと、烏滸がましいことはとても言葉にできませんでした。
この舞台において、私はただの道化に過ぎません。初めから、私には彼女の相手役など任されていないのです。
私は彼女の目の前に一輪の紅い薔薇を出して、その柔らかな手に持たせました。
「無責任なことは言えませんが……少なくとも私は貴女に輝かしい未来があるようにと、心から願っていますよ」
「……ありがとうございます」
彼女はそう言って薔薇を大切そうに握り、優しく微笑みました。いろいろな汚くおぞましい身勝手な思いをすべて道化の仮面の下に押し込んで、サッと身を引きます。
「……さて! そろそろ失礼いたします。また機会があれば!」
「はい、また」
これ以上余計な真似をしないようにと、大股でその場を後にしました。いっそ、英智と彼女が結ばれてくれたなら良いのですが……いいえ、もしそうなったとしても、きっと私のこの苦しさは消えてくれないのでしょうね。