「……帰りたくないな」

そういうセリフを、まさか現実に聞く日がくるとは全然思ってなかった。だからつい一瞬固まってしまったんだ。すると彼女は誤魔化すように笑った。

「ごめん。変なこと言っちゃった」
「まっ、……て!」

距離を置こうとする彼女の細い手首を掴む。手汗が気になるけど、気にしてる場合じゃない。まっすぐに彼女の目を見つめた。ありきたりなセリフでも良いから彼女を引き止めたかった。

「俺も帰したくない、っていうか、その……」

カッコよく言えなくてもにょもにょと口ごもると、彼女は少し困ったように笑った。

「友也くん、ちゃんと意味わかってる?」
「なっ、わ、わかってるよ! わかってなかったらこんなに緊張してないし……」

顔が熱い。やっぱり情けなくて彼女の手首を離すと、彼女はそっと俺の手に指を絡めた。ほんの少しだけ、気のせいかもしれないけど、彼女の手は震えていた。

「……本当に今日は帰さなくて良いのか?」
「う〜……もう、聞かないで……」

俺と同じくらい真っ赤になった彼女は、消え入りそうな声でそう言って視線を逸らす。それがすごく可愛くって、俺も心臓が飛び出ちゃいそうなくらい緊張してるのに、それも忘れて彼女に一歩近付いた。

 そのままピンク色の唇にちゅっとキスをして、彼女の手をギュッと握り返す。

「カッコよくエスコートできなくてごめん。でも絶対、後悔させないから」
「……もう十分カッコいいよ」
「あはは、なら良かった」

熱い手のひらをくっつけて、指をしっかり交互に絡めて一緒に歩きだした。いつもなら駅まで送ってそこでお別れだけど今日は違う。

 不安も緊張もちろんあるけれど、一番大好きな人ともっとずっと長くいられるだけで空も飛べそうなくらい嬉しい。だからきっと大丈夫、今夜は絶対良い夜になる。