※ぼんやり ズ!! 時空


「あ、わんちゃんだ。こんにちは、散歩日和だね」

ESの空中庭園で、そいつはまたベンチに座りボーッとしていた。たまたまこの空中庭園で見かけた日から、なんとなく、暇が出来るたびに彼女に会いにここを訪れた。

「わんちゃんじゃね〜っつってンだろ!」
「でもオオカミでしょ?」
「大神!晃牙!だ!いや、わんちゃんじゃなくて狼なら良いンだけどよ……もしかしてお前吸血鬼ヤローの知り合いなのか?」
「吸血鬼……?さっきからハロウィンの話でもしてるみたいね」

隣に座れば、くすくすと、鈴を転がすように笑われる。ESの空中庭園にいるってことは、少なからずアイドルに関わる仕事をしてるはずだ。

なのに俺の名前は覚えねぇし、吸血鬼ヤローのこと……というより、UNDEADのことも知らなさそうだ。実際、こいつが何者なのかも、なんでいつもこんなとこにいんのかも、俺は知らない。

「……テメーの名前はいつになったら教えてくれるんだよ」
「教えてほしいの?」
「べっ……別に、不便だし不公平だろ!」
「う〜ん……じゃあ、わんちゃんが大人になったら教えてあげようかなぁ」

柔らかい手が、よしよしと俺の頭を撫でる。温かな体温が春の陽だまりのように心地いい……けど、なんだか屈辱だ。

「ガキ扱いしてんじゃねぇ」

俺を撫でる手を掴んで、こちらへ引き寄せる。思いのほか軽い体は、簡単に俺に倒れかかった。一気に近くなった距離に、思わず身体が熱くなる。

「ふふ、照れちゃって、可愛い」
「あ"〜〜!うるせぇ!!」

結局、いっつもこうしてはぐらかされる。名前さえも教えてもらえないまま、いつ会えなくなるともわからないあやふやな関係のまま、ただ陽だまりの下くだらない話をすることしかできない。

……こういうとき朔間さんなら、上手く繋ぎ止められンだろうな、とか、思わなくもねぇけど。でも、今はまだ、穏やかな時間を一緒に過ごすだけの仲に甘んじていても良いのかもしれねぇ。

隣でにこにこバカみてぇに笑ってる間抜け面を見てると、自然と頬が緩んだ。