マーキング
「ただいま〜……」
深夜にさしかかろうとした頃、ようやく恋人が帰宅した。今日は飲み会があるって前々から言ってくれてたから、労わってあげようと俺も起きて待っていたわけなんだけど。
思ったより疲労した顔でリビングにやってきたなまえちゃんは、俺に近付こうとせず、さっさと着替えて寝室へ行こうとした。
「ちょちょ、待って待って。何かあったの?」
「んひゃっ! あ、え〜何にもない、よ?」
なまえちゃんは本当に可愛いくらい嘘が下手だ。詰め寄ると目を泳がせるし、嘘をつくとき必ず髪を触る。壁まで追い詰めると、不意に嗅ぎなれない香りがすることに気がついた。細い両肩を壁に押し付けて、首もとに顔を近付ける。
「……男用の香水の匂いじゃない? これ。どういうことかなぁ?」
「う……そ、そうかな? 香水キツい人いたからかな〜……」
「嘘つくのホンット下手だよね。何されたの? 怒らないからちゃんと言って」
真剣に瞳を見つめれば、なまえちゃんは観念したように眉尻を下げて小さな声で話し始めてくれた。
「飲み会って聞いたから行ったのに、なんか、クラブみたいなとこだったの……それで知らない人に声かけられて、距離すごい近い人とかいたから多分それで……」
「は?」
「う……怒らないって言った……」
「怒ってないよ、ムカついてるだけで」
「ほぼ同義……」
なまえちゃんに対しては怒ってない、これは本当だ。けど俺のものに香水の匂いが移るまで勝手にベタベタ触った男は何があっても許せない。
「お風呂、後でもいい? 安っぽい香水の匂い、全部俺が消してあげる。触られたところもちゃんと全部教えて」
「え……、や、お風呂入らないと汚いよ……?」
「うん、他の汚い男に触られたところ全部俺に上書きさせて?」
ひょいっとお姫様抱っこで持ち上げて、そのまま寝室のベッドに運ぶ。なまえちゃんはもう諦めたのか抵抗せず、ただ俺を受け入れてくれた。
他の男の匂いでキレるなんてちょっとワンちゃんみたいだけど、今夜ばっかりはしっかりマーキングさせてもらおうかな。