抱きしめあって
「海って、ちょっと怖いかも」
彼女は浅瀬に素足をつけて、潮風に白いワンピースの裾を揺らしながらぽつりと呟いた。その瞳は遠く水平線を見つめていて、俺はその姿に見入っていた。
「薫くんは、海、怖くないの?」
遠くを見ていた瞳が、不意に俺を見る。目が合うと反射的に心臓が不具合を起こす。へらりと笑って首を傾げた。
「う〜ん、全然怖くないって言ったら嘘になるけど、怖いよりも綺麗だなとか好きだなっていうほうが勝るかな」
そっか、と小さく返事をして、彼女は微笑む。俺はズボンの裾を捲りあげて彼女の隣に並び立つ。素足に触れる冷たい海水と、柔らかな砂がくすぐったかった。彼女の白い頬にかかる横髪をそっと指で掬い、小ぶりな耳にかけてやる。
「浅瀬だったら怖くない?」
「うん」
彼女は白い頬をわずかに薄桃色に染めて頷く。その輪郭を包むように手を当て、親指の腹で頬や目元を撫でた。磁石が引き合うように自然に、けれど波が折り返すように柔らかく、くちびるを重ねる。
俺よりも小さな手が、そっと俺の手の甲を覆う。彼女は長いまつ毛を伏せて穏やかに笑った。
「薫くんがいてくれるなら、深いところでも怖くないかも」
ちゃぷ、ちゃぷ、穏やかな波が足もとをくすぐる。胸がどうにもむず痒くなるのは波のせい……なんかじゃない。
「……うん、ちゃんと手を引いてあげるよ。だから、俺の好きなものを、なまえちゃんも一緒に好きになってくれたら嬉しいな」
「うん」
「夏になったら、一緒にサーフィンもしようね」
「うん」
にこにこと笑顔を浮かべて彼女は頷く。そのくちびるにもう一度キスをして、彼女の身体を力いっぱい抱きしめた。
顔を埋めた首もとからは淡い花の匂いが薫る。彼女はその細い腕を俺の背中に回して、母親が子どもにそうするように背を撫でてくれた。
俺だってきっと、彼女が腕の中にいてくれるだけで、怖いものなんてひとつもなくなってしまう。こうして抱きしめ合っている状態が、お互いの本当の在るべき姿なんだ……なんて、ちょっとくさすぎるから言わないけど。
彼女は浅瀬に素足をつけて、潮風に白いワンピースの裾を揺らしながらぽつりと呟いた。その瞳は遠く水平線を見つめていて、俺はその姿に見入っていた。
「薫くんは、海、怖くないの?」
遠くを見ていた瞳が、不意に俺を見る。目が合うと反射的に心臓が不具合を起こす。へらりと笑って首を傾げた。
「う〜ん、全然怖くないって言ったら嘘になるけど、怖いよりも綺麗だなとか好きだなっていうほうが勝るかな」
そっか、と小さく返事をして、彼女は微笑む。俺はズボンの裾を捲りあげて彼女の隣に並び立つ。素足に触れる冷たい海水と、柔らかな砂がくすぐったかった。彼女の白い頬にかかる横髪をそっと指で掬い、小ぶりな耳にかけてやる。
「浅瀬だったら怖くない?」
「うん」
彼女は白い頬をわずかに薄桃色に染めて頷く。その輪郭を包むように手を当て、親指の腹で頬や目元を撫でた。磁石が引き合うように自然に、けれど波が折り返すように柔らかく、くちびるを重ねる。
俺よりも小さな手が、そっと俺の手の甲を覆う。彼女は長いまつ毛を伏せて穏やかに笑った。
「薫くんがいてくれるなら、深いところでも怖くないかも」
ちゃぷ、ちゃぷ、穏やかな波が足もとをくすぐる。胸がどうにもむず痒くなるのは波のせい……なんかじゃない。
「……うん、ちゃんと手を引いてあげるよ。だから、俺の好きなものを、なまえちゃんも一緒に好きになってくれたら嬉しいな」
「うん」
「夏になったら、一緒にサーフィンもしようね」
「うん」
にこにこと笑顔を浮かべて彼女は頷く。そのくちびるにもう一度キスをして、彼女の身体を力いっぱい抱きしめた。
顔を埋めた首もとからは淡い花の匂いが薫る。彼女はその細い腕を俺の背中に回して、母親が子どもにそうするように背を撫でてくれた。
俺だってきっと、彼女が腕の中にいてくれるだけで、怖いものなんてひとつもなくなってしまう。こうして抱きしめ合っている状態が、お互いの本当の在るべき姿なんだ……なんて、ちょっとくさすぎるから言わないけど。