「本当、素敵ね。……時間も忘れちゃいそう」

 涼やかな風の通る、ひとけのないバラ園。甘い香りに包まれて、二人でベンチに腰掛けていた。相槌も返さない彼女のほうを見てみると、彼女はアタシの肩に頭をもたげてすやすやと眠りこけていた。

「フフ、こんなにいいお天気だと眠くなっちゃうわよね」

柔らかな髪をそっと撫でる。

 小さな頭、柔らかそうなピンクのくちびる、バラの香りに混じって鼻腔をくすぐる柔らかな香り……全部アタシにはない、可愛い女の子だけのもの。

それでも不思議と愛おしく感じるのは、彼女がアタシを、アタシ自身を愛してくれているからだと思う。ちょうど鏡が反射するように、彼女の素朴な愛情がそのままアタシからの愛情になっている。

 その頬を指の背で撫ぜると、伏せたまつ毛が微かに震えた。

「ん……あ、ごめん。寝ちゃってた……?」

緩慢にまぶたを上げて、彼女は目をこすり頭を肩から離す。

「いいのよ、どうせ昨日あんまり寝てないんでしょ。寝不足はお肌に良くないわよォ?」
「ふふ、嵐ちゃんとデートするの楽しみだったから。わくわくして寝れなかった」
「もォ〜、小学生じゃないんだから」
「ごめんごめん」

 彼女は髪を手ぐしで整えて、ベンチから立ち上がる。グッと伸びをしてからアタシに向き直ると、得意げに笑って見せた。

「うん、嵐ちゃんは綺麗なバラが似合うね。やっぱりここに連れてきて良かった」
「……フフ、ありがと。アタシもすっごく気に入ったわ」

傍から見たら、アタシたち、恋人みたいに見えてるのかしら。恋人みたいに手を繋いで、頬を撫でて、笑っているけれど。

「そろそろお昼食べに行こっか。……また、来ようね」
「ええ、そうしましょ」

 友だち、恋人、親友、家族――彼女はどれにも当てはまるようでどれにも当てはまらない。

 でもどう見えるかなんて置いておいて、ただ寄り添って咲くバラみたいに、意味も名前もなく、そばにいられたら良いって思うの。きっと同じように思ってくれているって、言葉にしなくても繋いだ手から伝わるから。